恋人という関係になってから、早一週間。
それまでとあまり変わらない暮らしをしていた。
一緒に何かをしたり、どこかに行ったりすることはなく。
ダンジョンに出かけたり、製作をしたり、自己鍛錬をしたり、そんな変わらない毎日。
ただ。

港町リムサ・ロミンサ。軍部から出てなんとなく溺れた海豚亭のほうへ歩いていくと。
いた。

「サンクレッド」
「メリーか」
「何してるの?」
「出発前の一杯ってやつだ」
「えっ、お酒?」
「まさか。ノンアルコールだよ」
「そっか」

向かいの椅子を引いて座る。寄ってきた給仕にアイスティーと伝えた。

それまでは1週間に1回見かけるかどうかくらいだったのに。あれからというもの、見かけたら一声かけるようになったら、何だかんだで毎日一度は挨拶してる気がする。

(なんだかそんな気がしたんだけど、ほんとにいた)

カップを傾ける彼をじっと見ていたら、ふいに目が合って微笑まれた。

「最近なんだかよく会うよね」
「そうだな。俺はてっきりお前が俺を探してるのかと思ってたが」
「えっ、そんなことはない・・・はず」
「はず、か」

もしかして知らず知らずのうちに彼のことを探してしまっているのだろうか。まさか。


「メリーは何してたんだ?」
「ちょっと黒渦団本部に寄ってきた」
「そうか、大甲士ともなると部下を率いたりするんだろう?」
「そんな大したことはしてないよ、ちょっと指示を出すだけだから」

運ばれてきたアイスティーに口をつけると、優しい香りに包まれる。

「サンクレッドはこのあと用事?」
「あぁ、ウ・ガマロ鉱山とサプサ産卵地の動向調査だ」
「えっ、2箇所も?」
「ラノシアは一度に済ませようと思ってな」
「大丈夫?片方私行こうか」
「ハハ、お前が行くと、偵察じゃなく正面突破になりそうだな」
「うーん確かに・・・それじゃ不安を煽って逆効果か」
「そういうことだ。気持ちだけ頂いておくさ、ありがとうな」
「うん」
「慣れてるから大丈夫だ。それに・・・」

言葉を切ったサンクレッドのほうを見ると、相変わらずこちらを見ている。優しい表情がなんだかくすぐったい。

「明日の予定は何かあるか?」
「特にないよ」
「そうか、じゃあ明日この時間にまたここで落ち合おうぜ」
「えっ?」
「ビスマルクを予約してあるんだ」
「ええっ」
「お酒は明日のお楽しみってな。お前に寂しい思いもさせていたようだし」

それって・・・。

「それじゃ、俺は先に行くからな。また明日、メリー」
「えっと、行ってらっしゃい・・・?」

席を立ったサンクレッドは、去り際に私の頭を軽く撫でて行った。
暖かい手の感覚を思い出し、紅潮した顔を隠すようにカップを傾ける。
それって・・・つまりはデート!?

落ち着きを取り戻すためにひとつ深呼吸。
空になってしまったカップを置く。ふわふわした気持ちのまま立ち上がり近くの給仕に声をかけると、

「お連れ様が払って行かれましたよ」

・・・なんてこった。
あまりの展開に心が追いつかず、またもシュトラに助けを求めて石の家に飛ぶのだった。



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