分かってるんだ。そう呟く彼は酷く衰弱しているように見えた。
この世の中、全てが自分の思い通りにいくなんて誰も思っていない。思っていないのに、どうして腹立たしく思ったり、悔しく思ったりするのだろう。
地面に座り込み、一定のリズムで殴り続ける。そんな彼をどうにかしたいと思うけど、その理由を問うてもきっと彼は、答えないだろう。昔からの付き合いであるトリコにさえ何も言わない。トリコはそれが歯がゆかった。



「大丈夫なのか?」
「・・・あぁ、平気だ」



何度そう聞いても返ってくる答えは同じだ。ただ無気力にそう答える。
長年の付き合いの中、こんな00を見たのは初めてだった。トリコの知る00は、優男という言葉がよく似合う男だ。誰にでも優しく接し、そのくせ自分に厳しい。そしてココと同居をしていたはずだ。ココは?こんなに衰弱するまで00のことを放っておいたのだろうか。まさか。だが、自分の中に生まれた疑問を払拭することがトリコには出来なかった。
目の前にある光景が、今トリコに与えられた情報の全てなのだから。



「一回医者に見てもらったほうがいいんじゃないか?」



トリコは心配してそう言った。親友と呼んでも過言じゃない相手が、目に見えて衰弱しているのだ。心配以外の何物でもない。トリコにとっては、そうだった。
00は医者という言葉に一瞬眉をひそめた。本当に一瞬だった。トリコがため息をついたその一瞬見逃した。
00が医者を嫌うのは、ココのせいであった。00と話されることを危惧したココが喚くのだ。一度死ぬとまで言い出したとき、00はもう医者に行くまいと心に決めた。
実際のところ、医者に行って離別される可能性があるのはココだ。00自身に痣や傷があるわけではないのだから。だがココは喚く。幼子が母親と離されるのを嫌うように、離れたくない離れたくない、と。



「いや、本当に平気なんだ・・・・・・」
「・・・でもよ」



「00!!!」



怒気を孕んだ声だった。いや、怒気ではなく、焦りだったのかもしれない。呼ばれた本人は俯いていた顔を上げて、こちらへと駆け寄ってくる相手を認識する。トリコはその一瞬を見逃せなかった。



「・・・・・・ココ」
「よかったよ。家にいなかったから心配していたんだ」
「そうか・・・ごめんな」



トリコには目も向けず00に手を差し伸べる。その手を握り、立ち上がった00はトリコに、またなと声を声をかけ歩き出した。
ココはそんな00を少しだけ見つめて、トリコに向き直った。



「00に、何か余計なこと言わなかったかい?」
「余計なことっつって
も・・・・・・」



言いよどむトリコにココはにこりを笑みを浮かべ、そして一筋の殺気を向けた。



「僕から、00を、取り上げようとしないでくれよ」



置いてけぼりを食らったトリコはさっきのココの殺気と言葉。そして00のココを見たあの一瞬の表情がぐるぐるしていた。
砂上の城。
そんなに綺麗なものではきっとないんだろう。だがそれ以上に危うさを保って存在している。



「あー・・・医者に行くのは俺かもしんねぇな」



頭をガシガシとかく。
正常な人間なら、引っ張ってでも医者に連れて行くべきだろう。なのに、そう出来ない自分も、医者にかかるべきなんじゃないかと、そうぼやいた。



そういえばどうしてあんなに00は今にも泣き出しそうな顔をしたんだろうか。






愛するということ→病院に行こうか迷うということ