重くのしかかる重圧にココの気道はほぼ潰されていた。自分に跨り、首を押さえつける愛しい人は、とても笑顔だった。愛しい人が笑顔なら、ココはそれだけでよかった。



「ねぇ、ココ」



愛しい人が何かを言っている。答えようにもココには答えられない。嗚呼また機嫌を損ねてしまうのだろうか。ココは言い知れぬ不甲斐無さに襲われ、言い知れぬ無力感に襲われた。
笑って、何?何だい?って言いたいのに。それを気道が許さない。声を作ることを、一切許さなかった。声を作るなら、生命維持を優先させるココの体の生理的な防衛反応だ。



「返事してくれないの?」



体と心は別物だと、誰かが言ったのか知らないが、全くその通りだとココは心底共感した。生命維持なんて二の次でいいんだ。今、目の前で自分に話しかける愛しい人に言葉を返すことが何よりも一番の優先事項だ。それなのにこの体は、と脳内で自分の体に悪態をつく。
ココにとって、この一秒の今を積み重ねた先にある未来より、積み重ねている今が重要だった。動きの鈍った腕を持ち上げて、そっと愛しい人の頬に手を重ねる。大好きだよ、その思いがそのまま伝わればいいのに。ココは力なく微笑む。それが伝わっているとは到底思えない。思えないけれど、少しでも安心してほしかった。



「あはは、何笑ってるの?」



君が好きだから。
声が作れない今、そんなこと伝えられるはずもない。ココはもどかしさだけを募らせつつ、意識を手放した。



「ココ?」



呼んでも反応が無いことから、意識を手放したということを悟ったのだろう。00はココの首筋に当てていた手を離していた。頬に当てられたココの少しひんやりする手を取り、そっとてのひらに口付けを落とす。ココは知らない。
意識を手放した人間は通常よりも重たい。そんなこと関係ないように、00はココを抱き上げベッドへと運んでいく。ココを扱う手は、とても優しさに満ちているように見えた。実際はどうなのだろう。ベッドに寝かし、布団をかける。髪の毛を一回、二回、梳くように撫で、部屋を出て行く。ココは知らない。



部屋を出たところ、ドアを背にして座り込む愛しい人のことを。
人には分からない表情を浮かべていることを。
苦しそうに息を荒げていることを。



「息が、出来ないんだよ、ココ」






愛するということ→息が出来ないということ