壊れた00に暴力を振るわれたココは、歓喜した。決して人に暴力など振るわなかった00が自分にだけ暴力を振るったという事実に歓喜した。
それが始まりだった。



ベッドの中で目を覚ましたのはココが先だった。目の前にはあどけない寝顔ではなく、苦しそうな寝顔をしている00がいた。眉間に皺。浅く繰り返される呼吸。軽くにじんでる冷や汗だろうか。何故00がこんなに苦しそうな寝顔をしているのか。00の苦しむ理由をココは知っていた。それを夜毎、夢に見ているのだろうと思っていた。
元々、00は大人しく、物静かな性格だった。争いごとを避けていた彼は、口論ですら嫌がっていた。拳など握らない。人に常に優しくあろうとしていた。回りもそれを甘んじて受けていた。そもそも、人からの優しさや好意など、断るということはあまりないはずだ。00自身もそれを善しとしていた。
一方通行だが、歪みのない一方通行。
ココはそれが不満だった。誰彼構わず振りまかれる優しさ、好意。
好きという感情。
そんなもの、ココはいらなかった。欲しかったのは、ただ一人だけというもの。ココは00のただ一人だけというものが欲しかった。心の奥底というものがあるとするならば、そこから届きもしない窓へずっと手を伸ばしているようなものだった。知っていた。ココはちゃんと理解して、納得した上で手を伸ばしていた。
決して自分に与えられるはずのない、「特別」という枠組みを夢見て、笑顔を浮かべていた。



「コ、コ・・・・・・」



涙を文字通りボロボロ流している。赤くなった拳が力みすぎているのか小刻みに震えていた。仁王立ちで立ちすくんだ。息も絶え絶えに、自分が今殴った物体の名前を呟いた。
自分が信じられず、何をしたのか理解したくなかった。
積み上げていったものが急に信じられなくなった。



「00・・・・・・?」
「ぼ、ぼ・・・く・・・・・・」



殴るのをやめた00を心配したココが名前を呼ぶ。涙と鼻水でぐしゃぐしゃの00にココは蕩けるような笑顔を浮かべた。そして呟いた。



" もっと "



00から与えられる特別の証。ココはもっともっと、その証がほしかった。
誰にもあげないで。もっと、もっと!自分だけに与えてほしい。これで00の中でココという存在はその他大勢と一線を画いた存在となったのだ!手に入らないと思っていたものが!こんな目の前に落ちてくるなんて!
ココはこの時ばかりは神という存在を信じ、感謝した。



ココと00の歪な関係の始まりを夢で見ているとき、00は必ずうなされるのだ。ココはこの瞬間が何よりも好きだった。
自分のことを夢に見て、そのことで頭がいっぱいになって、そして自分にだけ囁く。
" ごめん " と。
00の頬に手を沿えするりと這わせる。少し荒れている。ちゃんと睡眠をとらないからだとココは眉をひそめた。00が睡眠を嫌う理由も知っている。理由は目の前にある。



「僕は、気にしないのに・・・どうして00はそんなに罪の意識にとらわれているんだろうね」



00の涙をすって重くなった睫毛が縁取る艶やかな瞼に舌を絡めキスを落とした。






愛するということ→ああ、これが愛ということ