「そろそろ引っ込もうかと思ってねぇ」



その言葉を聞いたとき、湯呑みを落とさなかったことをほめてほしい。
教員に振り当てられた部屋でみょうじ先生と一緒にお茶を飲んでいた。他愛のない話しかしていなかったはずだ。一年は組の生徒の話やテストの点数の話、この間食堂で練り物が出たという話。そんな話しかしていなかった。私を話を笑いながら聞いてくれるみょうじ先生に、安堵感を抱きながら私はお茶を飲んだ。
みょうじ先生は私よりも一回り以上年上の忍術学園で学園長先生を除く教員の中で最年長だ。その経験からくる授業の分かりやすさ、実技の素晴らしさ、それに加えて話しやすいや一人一人に気を配ってくれるなど、生徒からの信頼と人気も高い。
私がここの生徒だったときも、みょうじ先生が一年間だけ担当だったときがあった。あの一年間は誰にも言えないけれど、私の宝物となっている。
私が教師になろうと思ったのも、みょうじ先生と一緒に仕事がしたかったから。そんな理由で聖職と呼ばれる教師になったなんて、知られたら怒られそうだけれど。



「え・・・じょ、冗談ですよね・・・」



そう切り返すのが精いっぱいだった。
忍びたるもの、いかなる時でも自分の感情を相手に悟らせてはならない。それは忍びの常識であり、忍びならば出来なければならない最低限だ。
大丈夫だ、みょうじ先生が思っている以上に、私が動揺しているとは、バレていないはず。
私の言葉に、いつもの優しい笑みを浮かべて、また一口お茶を飲む。
私は、あなたのその笑顔が大好きだった。いや、もちろん今も大好きだ。その笑顔で見つめられたら、体中が沸騰したみたいに熱くなる。こういうところもあったから、私は忍びには向いていなかったのかもしれない。結果オーライだ。



「ふふ、そうですねぇ。でも、そろそろ体力などが劣ってきましたし」
「そんな!まだまだ現役じゃないですか!」
「ありがとう、半助。でも、実際四年生たちの方が体力もその他も勝ってるんですよ」
「だからって・・・!」



満足そうな笑顔。
嗚呼、そんな笑顔で言わないでください。引き留めたいのに。私は、もっと、もっとあなたと一緒にいたいんだ。





だって・・・だってまだ、
まだ、名前ですら呼べていないんですよ。




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