「もうバクフーンいつまで寝てるの!」
俺を起こす女にしたらハスキーな声を聞きながら俺は片目を開けて、また閉じた。俺のマスターは人間じゃない俺から見てもいい女だと思う。
だからって思う俺はやはり子供なんだろうか。
「もー…一緒に寝てやるんだから!」
そのぬくもりが…



私のご主人は私が言うのも可笑しな話だけど少し変わってる。
「バタフリー!今日は何が食べたい!」
「ふり〜」
「そうか!ビーフシチューか!だけどバタフリーは食べちゃうとおなか壊しちゃうからフーズな!」
ご飯のメニューを聞いてくるくせに答えは自分が食べたいものだ。



スリっと顔を私の主へと摺り寄せる。
私に持たれ休息を取られる主の寝顔に、私は心底安堵感を感じ、悦に浸ることができる。主がこれほど安らかな顔をされるのは私の側でだけだと知っているから。
私の唯一無二の主。この感情が人で言う恋慕だというのならばそれでもいい。
ただ側に…



「おーい、モノズー」
さっきから探してるんだがどこに行ったんだ?臆病なくせに、好奇心だけは人一倍あるアイツのことだ。どっかで迷子になってなきゃいいんだが…
「おーい、モノ―だっ!」
後ろから来た衝撃を受け止めきれず、俺は飛びついてきたモノズと一緒に地面へ倒れた。



「あーかわいいなぁもう本当に」
マスターはデレデレしながら僕をつつく。別に僕もいやじゃないからされるまま。何が楽しいのか分からないけどマスターはすごく楽しそう。
ぷにぷに。
ぷにぷに。
「大好きだぞ〜ダブラン」
僕も!って言えないけど、僕だって負けないくらい大好きだ!



たまに性格と見た目にとんでもないギャップが生まれることがある。うちのリングマがその典型だ。
「お客さんに挨拶しろって!」
俺が尻尾を引っ張って引きずり出そうとするけど隙間から出てこない。リングマが真っ赤な顔して両手で顔を隠してるなんてギャップ以外の何者でもない。



ゲッ、ゲッ、と楽しそうに鳴いてる俺のパートナーは言うなれば無邪気天真爛漫だが、悪く言えば迷惑以外の何者でもない。自分の体質を理解してないのか、すぐ抱きついてちゅっとしてくる。その度俺は毒なおしやまひなおしを常備してないといけない。
けど、憎めない可愛い奴だ。



頑張ったんですよ、マスター。
私、すごく頑張ったんです。
皆から醜い醜いって言われて、マスターはすごく綺麗な人で、マスターのポケモンだって、恥ずかしくないように。ねぇ、私綺麗になったでしょう?マスターの横にいても可笑しくないでしょう?
どうして私は今一人なの?



「どうして君はここに来るの?」
私にそう聞く人間に私は何も返さない。返すことに意味はないし、返したところでこの人間に何の意味もないだろうと何となく分かるからだ。意味の無い応答は言葉通り無意味だ。
「君は何も言わないね…」
でもそれがいい、と私の体に顔を埋める。



「あの、ば、バシャーモ…も、もういい、から」
だから降ろしてください本当にお願いします。
俺の最初のパートナーであるアチャモの進化系であるバシャーモはなぜかすごく紳士に育った。主に俺に対して。俺が少し足くじいたって言えば姫抱っこだ。
俺の、男としての沽券が…



「たちー」
最近友達になった野生のオオタチ。
僕が野原にいると必ず来てくれる可愛い女の子。野生なのに毛並みがすごく綺麗で、撫でてるとすごく気持ちがいい。撫でられるのも気持ちいいのか、僕の手に頭を押し付けてもっともっとと言って来る。
僕たちにこれ以上の関係はない。



このジュゴンは僕に好意を持ってくれてるらしい。海で泳ぐことが好きで通っていたらいつの間にか一匹のジュゴンに懐かれていた。一緒に泳いだり遊んだりして、帰ろうとすると返すものかと沖のほうへ連れて行こうとする。
嬉しいけど、僕は君をゲットできないんだ。だって、僕は…



自慢じゃない。
自慢じゃないけど、俺のウルガモス以上に綺麗で美しくてカッコよくて強い素晴らしいウルガモスはいない。全然全く持って自慢じゃない。ただの事実なんですよね。バトルもやりますよ。僕のウルガモスは、それはそれは華麗に勝つんですよ。
親ばか?そんなばかな。



「さぁ、困ったことになった。迷子だ!な、何だその目は!言っておくけど、僕が迷子になったんじゃないぞ!道が迷子にだな…」
マタカト思ッタ私悪クナイ。私ノマスターハ迷子常習犯ダ。学習シテホシイ。
正解ノ道ヲ見ツメルト泣キナガラ大好キダト言ウンダカラ見捨テラレナイ。



人間なんて信じられない。俺を見るなり悪いポケモンだ!あっちに行け!とか。うんざりだった。でもそんな時、あいつに会った。
人間にナイフで切られた傷を見て、つきっきりで手当してくれた。
俺を撫でてくれる人間なんていなかった。
「俺とくるか?」
初めて人間を愛しいと思った。



進化っていうのはあんまり好きじゃない。だって人の感情をコロッと変えてしまうから。あんなに可愛がってくれたのに、捨てられた。可愛くないっていう理由で。
そんなものか?
所詮、人とポケモンは相容れないのか?
「またこんな隅っこにいて、風邪ひくぞ?」
あんたもいつか…?



俺のコジョンドさんはさん付けしないと怒られる。理不尽。
フーズは俺の手作りのみ。作り置きNG。理不尽。
コジョフーの時は鍛錬に勤しむ健気な子だったのに…!
「って!」
そんなこと思ってると心読んだコジョンドさんから蹴りを頂いた。でも俺の様子を伺うって知ってるから。



ユンゲラーの十八番といえば、スプーン曲げ。多分ほとんどのユンゲラーがいとも簡単にこなしてしまうんだろう。
「そ、そんなに落ち込むなよ、な!絶対出来るようになるって!」
俺のユンゲラーはそれが出来ない。毎日練習してるけど、一度も成功しない。慰めるのが最近の日課だ。



俺の地元を彷彿とさせるユキメノコは何とも言えない大和撫子だ。バトルでもまずお辞儀から始まる。可愛い俺の嫁さん。
本人に言うと顔赤くしてもじもじするんだけど、本当に可愛いんだよな。こおりタイプなのに寒がりっていうのもまた…抱きしめて一緒に火に当たるのが流行です。



「だからあれほど言っていただろう!」
マイペースにもほどがあるだろう!画家として筆の手入れは基本中の基本だ!
「お前のは尻尾だろう!その場でどうして洗わなかった!」
絵の具が固まってカチカチになった尻尾を撫でながら涙目のドーブルにため息しか出てこない。



どうして人気が出ないんだろうか。
「お前はこんなに可愛いのにな」俺の横に座り、大人しく撫でられているブースターはとても可愛い。けど、世間一般的にあんまりブースターを手持ちにしている人はいない。
少数派だ。
「な…どうしてだろうな…」
俺がため息をつくとペロっと頬に。



こいつは愛玩ポケモンとして人気がある分、酷い扱いを受けてきた子が多い。俺がここで引き取って育ててるこいつも、粗悪なブリーダーの元から保護してきた子だったりする。最初から人を疑おうとしない素直な性格に俺が幸せにすると誓った。
「ぶいっ」
「あぁ、そろそろ飯だな」



「ひーの」
「あ?ばーか」
「!ひのっ!」
「あっははは!ばかじゃねぇってか?」
「ひの!ひーの!」
俺の馬鹿発言に短い両手を精一杯振って否定するヒノアラシが可愛くて仕方がない。可愛いやつほどいじりたくなるのは人の性分だと思う。
「ひのー!」
「はいはい、大好きだよ」



僕が悪いんだ。今回ばかりは僕が全面的に悪い。今度のお休みには埋め合わせを必ずする。絶対するから、
「つるを解いてくれないかな、ツタージャ」
「…たーじゃ」
すごく疑いの目です。本当にありが―じゃない!
「お願いだよツタージャ。これが終わらないと仕事が〜」
「たじゃ」



ぼくはしんかするのをいやがった。
だってますたーのかたにのれなくなるってきいたから。
ここはぼくのいばしょだもん!
そうしたらますたーがかわらずのいしをちいさくして、ぼくせんようのくびわにしてくれた!よくにあうよってわらいながら!ああもうますたーだいすきだよ!



最近思うんだが、俺のところのクチートは愛情表現が過激すぎやしないか?
「ちょ、痛い痛いクチートまじあのちょ、歯!歯がほら刺さってますいたたたたた」
大好き!っていうのを表現するのによく甘噛みをすることは多い。クチートも甘噛みなんだろう。けど、毎回流血沙汰になる。



私は外に出るのが好きじゃない。どちらかといえば嫌いだ。大っ嫌い。お日様なら窓から浴びることだって出来る。
なのに、ご主人は私を外へ外へ連れ出そうとする。何でそんなことするのか分からない。けど、
「クルマユは外で見ると一段と美人さんだな!」
なんて言われたら私…



「なーどうしてズルッグはそんな腰パンしてんだ?今時もう流行ってねぇぞ?」
ズルッグのズボン?何?皮?を引っ張りながらそんなこと言うとすごく嫌そうな顔してあっち向かれた。
「あひっでーご主人さまを無視するのか?っちゅーか、これ卑猥だよな」
とび蹴り食らった。解せぬ。



二人の時は甘えなくても大丈夫。マスターはどこにも行かないし、僕を見てくれる。でも、ほかの人といる時は?ちゃんと僕を見てくれてる?本当に?僕の側にずっといてくれる?
「ツタージャ?」
離さないでね。ずっと、ぎゅってしててね。
「人前だと甘えん坊だな」
不安で潰れそう。



「たじゃー」
「いや、今度はこっちに行くべきだろう」
「たじゃ!?」
旅は道連れ世は情け。
ツタージャとの旅はいつも分かれ道で意見が割れる。お互い頑固だから譲るってことを知らない。
「たじゃ!たーじゃっ」
「こっちだって言ってんだろ?」
最終的にはいつも俺が折れるけどな。