求めたものはただの温もりでした。バカなやつだと皆から言われました。でも仕方ないのです。心の奥底から求めてしまったのです。バカです。バカなんです。でも、バカはバカなりに、一生懸命考えて考え抜いて、それでも出した答えなんです。いつだってそうだったんです。求めても求めても、手に入らないと分かっていても、求めてしまうのです。
恋心、愛情。
そんな綺麗なものじゃありません。
ただの煩悩です。
「何をやってるんだ?」
「笠松こそ、何してんの?」
誰もいないはずの3学期末の教室で、放課後の校庭を眺めていた。進路も決まって、何もすることがなくなった俺は無意味に学校へ来ている。ただ無造作に過ぎていくこの時間を俺も、惜しんでいるんだろう。二度と帰っては来ない。今思えばまぶしくて、酷く愛しい時間。
「部活?でも引退したはずでしょ?」
「あぁ。だから様子見に来ただけだ」
そっか、と返す俺はそのまま笠松に向けた視線をまた校庭へ戻す。サッカー部に野球。あと陸上。頑張ってる姿を見ると、微笑ましく思えて、頬が緩む。同時に眉間にも皺が寄る。
寄ってるのが自分でも分かる。未練がましいなぁと内心自分を嘲笑。
ずっとやってた陸上を、俺は2年で辞めた。別に誰が悪いというわけでもない。
「お前、ずっといるのか?」
「へ?」
「いや…」
煮え切らない様子の笠松に首を傾げる。振り向くと何かを言いたそうに、言いにくそうに首に手を当てて俯いてる。笠松?と言葉の続きを促す。チラッとこちらを見て、そのまま俺の横に並び、同じように窓から校庭を見る。俺より身長の低い笠松がどこを見ているのか分からないが、何となく、推測は出来た。男の癖に長いまつげが、頬に影を作る。
「体育館からの帰り、窓からお前が見えたから」
「あーそうだな、最近はずっといる」
「暇じゃないのか?」
不思議そうに俺を見上げる笠松に、俺は苦笑を返す。
退屈じゃないわけじゃないけど、家にいても何もすることがない。大学の入学課題は既に終えたし、かと言って陸上部に顔を出せるわけもない。だから、ほぼ自然にこの教室に入り浸るわけになる。最初は先生に色々言われたけど、それも無くなって、本当に伽藍としている。たまに静か過ぎて耳鳴りさえする。でもその感じが俺は嫌いじゃなかった。
もし世界に一人ぼっちなら、俺はこんな感情を抱くことも、悩むことも、何も無かったのに。
なんてことを考えながら居眠りをする。教室での居眠りは格別だと俺は常々思う。
「別に平気。それに今は笠松がいてくれるし」
俺は窓から離れて、教壇に飾ってある花瓶の水を替えようと足を向ける。一昨日、母さんが持たせたアンスリウムの花が咲き誇っている。
「俺水替えてくるなー」
そのまま振り返らずに教室を出る。だから、俺は知らない。
その時笠松がどんな顔で俺を見送っていたのか。
その時笠松がどんな目で俺を見ていたのか。
何故笠松が教室にわざわざ寄ったのか。
何故笠松が俺に話しかけてきたのか。
バカだから。分かろうとしないんだ。変に期待持つほうが辛いっていうことだけ知ってるから。それがどういう意味を含んでいるかもしれないか、なんて。
俺は知らない。