限りのない可能性の中から、実現できるものを取捨選択していく。それは一般的な行為であり、他意のない行い。そこには、自分の利益しか計算してはいけない。
「HAYATO?何見てるんー?」
「んにゃー?名前くん!」
私の行動も取捨選択によって選び出された限りのある可能性たち。だが、それは本当に私の利益のみが汲み取られているのだろうか。分からない。それを確かめる術すら、私は持ち合わせていないのだから。
「えー!いつ帰ってきたの?」
「ついさっき。”空港ついたらその足で次の現場へ〜”やって!人使い荒すぎるやろ!」
「でも僕はラッキーかにゃ〜」
私ではない意思。それは紛れもない私なのだが、私ではない。
「何でや?」
だって、仮面の彼は、
「だって名前くんとすぐに会えたんだもん。これってラッキー以外の何でもないにゃ」
ほら、私はこんなとろけるような笑顔で彼に微笑んだり出来やしないんだから。
「なら俺も帰ってきてすぐにHAYATOに会えたんやし、ラッキーやな!」
にしし、と私が大好きな笑顔をHAYATOに向ける。それはHAYATOに向けられたものであり、私に向けられたものではない。私は一ノ瀬トキヤは、すぐ側で、二人のやりとりを見つめているようなものだ。胸が締め付けられるように悲鳴をあげる。
本当は叫びたかった。

HAYATOなんか見ないで、私を見て!

どちらも私なのに、私ではないような錯覚に陥る。
あやふやで、不安定で、曖昧。
いっそのこと、ドロドロに溶け合って分からなくなってしまえばいいのに。
私とHAYATOの境界線なんて、無くなってしまえばいい。