それから一ヵ月後。

 ●●は無事ホグワーツに復帰し、四苦八苦しながら授業を受けている。僕はそれをサポートするようにと老いぼれに頼まれた。


 彼女の生活が若干落ち着いたころ、僕は尋ねた。

 あの眠気とは。
 やはり彼女が「眠い」といって姿を消していたときは、本体に霊体が戻っていたらしい。霊体でちょろちょろホグワーツを動き回っていたこともしっかりと覚えていたよう。・・・じゃないと僕のことは知らないのだけど。
 そして、他のゴーストには彼女の姿が見えなかった理由。
 はっきりしたことはわからないが僕の予測を述べるならば、『●●が死んでるわけでもなく生き生きしているわけでもなく、中途半端な状態だった』からだろう。ゴーストたちが暮らす場所と、●●がうろついていた場所は次元が違っていたのだろう。 

 本体に戻っているときに、見舞いに来たダンブルドアに僕のことを話したそうだ。これに関しては彼女を抓らずにはいられなかった。そのせいで僕はとてつもなく恥ずかしい思いをしたというのに。

「でもそのおかげでダンブルドアは、レギュラスに病院に行くように指示してくれたのに」

 ぽつりと呟かれた声は無視した。




 生徒たちにとっては、突如現れた顔色の悪いハッフルパフの女とブラック家の弟が馴れ合っている、という状況はひどく興味を引く対象であったらしい。



 慣れないホグワーツで若干迷子気味になっていた●●を回収しハッフルパフの寮に案内していたところ、ポッターと兄さんに行く手を阻まれ訳を訊かれた。偶然足場にあった二人の足を踏んでから通り過ぎてやった。

 あの人たち誰?と●●に訊かれたから問題児だと答えておいたが、嘘ではない。



「――ここを真っ直ぐ行けば寮につきます」

「うわー・・・。いつもありがとう」

「早く友人の一人や二人つくってください。面倒でたまらない」

「精進します・・・」


 悪態をついて見せるけど、実はこうやって連れまわすのが楽しかったりする。絶対言いませんけどね。


「ありがとうね。じゃあ、おやすみ」

 引っ張るために繋いでいた手がほどけ、後を追うように手を伸ばしてしまう。でも●●には届かない。●●が廊下の先の暗闇にそのまま溶けて消えてしまうような恐怖。


 何度繰り返しても慣れてはくれない。


 気がついたら●●を追いかけ、引き止めるように後ろから抱きついた。


「う、わ。びっくりしたー・・・」

 ●●は事態を飲み込むと呆れたようにため息をついた。

「また?大丈夫だって言ってるのに・・・」

「うるさい」

「・・・もう」

 このちょっとしたトラウマは彼女にはきっと理解し得ない。
 それでも振りほどくことなくじっとしている●●は、わかろうとはしてくれているのだろう。

 布越しに伝わってくる熱をしっかりと感じながら、さらに腕に力をこめる。




「――なんか」

 ●●の手が、彼女にまきつく僕の腕に触れる。

「さわれるっていいなあ」


 感慨深げな●●の言葉に一瞬ぽかんとしておもわず吹き出すと、●●は恥ずかしそうに大声を上げた。


「僕も同じ気持ちですよ」


 別に聞こえなくてもいい。そんな気持ちで呟いたけれど、彼女の耳にはしっかり届いたらしい。暴れていた身体がおとなしくなった。

 いつの間にか、抱えていた不安なんて消し飛び、緩む頬を我慢しながら●●を解放する。

「バカにしないでよ!」

「だってバカでしょう?」

「そうだった!」

 頭を抱える●●にふっと微笑み、また彼女に一歩歩み寄る。
 警戒して眉を寄せる●●になど構わずもう一歩つめて、耳元で囁いた。




「っ!レギュラスのバカ!」

 ●●は顔を真っ赤にしてばたばたと逃げて行ってしまったけれど、もう恐怖は忘れていた。

 そして僕も彼女の行った先へ背を向ける。



 あなたに触れられるだけで、あなたの姿をこの目で捉えることが出来るだけで、僕はそれだけで幸せです。



 慣れないことなんて言うもんじゃないな。

 熱くなる頬を押さえ、僕は小さくため息をついた。

おわり






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