「ねえ●●」

「・・・」

「ねえってば」

「・・・」

「●●ー?」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「おい」

「・・・なによ」

 はじめはかわいらしく名前を呼んできていたリドル。いくら繰り返し呼んでも返事をしない私に切れたらしい。でも知ったこっちゃない。
 リドルの顔も見たくなくて、つんとすましそっぽを向く。

 少しの間リドルからの無言の圧力と痛い視線を耐えれば、小さくため息をついた彼は負けを示した。

 リドルは『ちゃんと話を聞いてあげますよ〜』状態である印に、やつの恋人とも言える本を傍らに閉じておいた。


「何怒ってるの」

 質問には答えずちょっとだけ首を回してリドルを見る。
 きれいな顔の眉間にしわをちょっとだけ寄せて、不機嫌そうに口をへの字に曲げて。いつもならでこピンの一つや二つ食らわせてやるところだけど、そういう気分にすらならない。ハッとあからさまに息をつき、また目をそらした。


「胸に手を当てて、よーく考えてみれば?」

 リドルはクエスチョンマークを浮かべ、頬に指を当てて何かをぼーっと考えた後ぽんと手を打ち、私のほうに手を伸ばしてきた。


 耳でも引っ張られるのかを身構えたがその手はまったく違うところに触れた。

「胸に手を当てて、ね」

「・・・」

 私の胸の上でさわさわと動き回る手のひらに呆然。こいつ、本物のバカだ。

 あまりにもバカすぎて私が固まっていると、へらへらとしていたリドルの顔が徐々に険しくなり、彼はごくりと息を飲み込んだ。

「な・・・ない・・・!」

「せいやああああああ!!」




「何も本気で殴ることないじゃないか。かわいい冗談なのに」

「死ね」

 かわいくないし冗談にならないし死んでほしい。

 思わずか弱い私の本気が出てリドルの意識が一瞬飛んだけど、それだけじゃ重なり重なった怒りはとどまらなかった。

 もう口をきいてやらないと、私はリドルに背を向けソファーに胡坐をかく。


「どうして怒ってたの?ねー●●ー」

 ぶりっ子しやがって。
 ちょんちょんと肩をつついてくるのも無視。それにしてもこいつの無神経さには腹が立つ。

 数度私の名前を猫なで声で呼んで反応がないのを確かめた後、ようやく静かになった。


 静かになったのはいいが背中に痛いほどの視線を感じて振り返るなんて出来ない。


 そして、ずりずり、ずりずり、と私のほうにリドルの気配が近づいてきて、耳元に気配を感じたのも束の間。肩の上にリドルの顎が乗ってきて、加えてお腹に後ろから手を回される。


「ねえってば」

「・・・」

 いや、別にかわいいとか思ってないし。このぶりっ子野郎って思っただけだし。

 なおもねーねーと言い続ける声を無視し通せば、また静かになった。顎は乗っかったまま。



「教えてくれなきゃわかんないよ」

 こてん、と私のほうに頭を預け拗ねたような呟きと吐息をもらす。


 あーはいはい。負けました。



「バレンタイン?」

 素っ頓狂な声を耳元で上げられる。
 そういう反応すると思ったから言いたくなかったのに。

「だって、いつまでもリドルくれないんだもん。とっくにバレンタイン終わってるのに」

「そんなこと言われてもねぇ・・・」

 興味なさそうにまた私の肩に顎を乗せてごりごりと筋を押してくる。痛い。


「僕甘いの苦手だし」

「私は好きなの。別にリドルは食べなければいい話だし」

「●●だけいい思いするつもりなの?」

「彼女にいい思いをさせてやろうって気は起きないの?」

「んー。特には」

 だめだこりゃ。期待した私が完全にバカでした。


「それにバレンタインって、いつもお世話になってる人に感謝の気持ちをこめて贈るものだよね?」

「知ってるよそれくらい」

 だからリドルは私に渡す義務があるんじゃないか。わがままで自己中心的で押してだめならもっと押してくるやつの世話をしてるのはどこの誰だ、と言いたい。


「じゃあ、どうして●●は僕にくれないの?」

「は?どうして私が・・・」

「本当にそう思うの?」

「・・・」


 そりゃあ・・・たまには、宿題手伝ってもらったり、授業中居眠りしてしまったところ写させてもらったり、二人一組の薬の調合のときはてきぱきやってくれていつも満点もらえたり、テスト前は自分の勉強より優先して私に丁寧に教えてくれたりするけど、別に私はお世話になってるわけじゃ・・・ない・・・・・・。


「ね?」

 と、さもすべてわかってますよ的に言われていらっとするけど、言い返せないのが悔しかった。


「・・・でも、お菓子ほしかった」

 唇を尖らせ、仕返しとばかりに背中のリドルに体重をかける。


「買えばいいだろ?」

「もらったほうが嬉しい。でももういいや」

 無理矢理もらっても嬉しくないし。
 むくれながらリドルの胸にぐりぐりと頭を押し付けている間、リドルは何かを考えるように斜め上をじっと見つめていた。私もその横顔を、頭を傾けて眺める。

 くそっ。肌すべすべしやがって。ほっぺたぐにぐにしてやろうと手を伸ばそうとしたところ、リドルがぱっと私を見た。


「●●●●」

 頬を指先でつつかれる。

「なになに?なんかくれるの?」

 お返しに両側から頬をはさんで変顔させたら叩かれた。


「あげるというか、するというか」

「え」


「まあ、心して受け取ってよね」

 にこり。
 あ、これだめなやつ。


「やややややっぱいらないです結構です」

「遠慮しないでよ」

 逃げようとすれば何かが降臨なさったリドルは、いっそすがすがしいほどの笑みを称えて私の頬を掴んだ。なんでそこ掴むの。せめて腕でしょ。


「無理!無理です!オリオンっ!オリオンはどこだ!!助けて!!」

「はいはい。ちょっと黙ろうね」



 ありがたいことにリドルから賜ったものは、胸いっぱいの愛(日ごろの鬱憤)がこもった抱擁(卍固め)でした。






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