「ほら、行くよ」

「やだあ!!やだああ!!」

 細い腕のどこにこんな腕力が備わっているのか、リーマスは暴れる私をずりずりと引きずり、玄関へと連れて行こうとしていた。


 今日は運命の日。
 結果が・・・結果が・・・っ!!

 試験では出せる力は全部出したし、個人的には満足のいく回答を作り上げることができた。けれど、それがすべて正しい解答とはもちろん限らないわけで。むしろこの自信のせいで、ダメだったときのショックが大きそう・・・。

 昨晩から寝るに寝れず、三十分ごとに目が覚めるという具合でまともに落ち着いていられなかった。

 朝も日が昇る前に目が覚めてさ。そのときリーマスはすでに起きてて、「おじいちゃんかっ」と言ったら「おはよう、おばあちゃん」と皮肉を返された。失礼な。

 そんなこともあって、さっきまで時間までだらだらと喋っていたわけだけど・・・。

 私が、今日のことを彼に触れてほしくなくて必死にいろんな話を振っていたにもかかわらず、私が次の話題を考え込んでる隙に時計を見やり、「そろそろ結果出てるんじゃない?」と。


 それからはもう彼と私の攻防戦。

 行きたくないとごねる私と、大丈夫だなんて根拠のないことを言いながら引っ張っていこうとするリーマス。

 部屋に逃げ込もうとしたけど足の長さが寸分足らず、あっさりと捕まってしまった。


「さ、行こう」

「無理無理無理」

「靴履いて」

「やだやだやだ」

「おんぶして行ってほしいの?」

「やだ!!」

 私だって、出てしまった結果はもう今更どうしようもないってわかってるし、誰かしらが確認をしなければいけないことだってこともちゃんとわかってる。

 でも私の心を占める半分の恐怖がそれをわがままにつっぱねるのだ。

 残りの半分を占める諦めと期待が、どうにかこうにか、私が靴を履くという行為をさせてくれた。


 だらだらと靴を履いていれば、横からリーマスが靴紐を奪ってさっさと結んでしまった。

 何も言わずに睨むと、リーマスは無害そうな笑みを向けてきて。



 外に出ると、想像したよりもずいぶんと温かい空気が向かいいれてくれた。

 私が逃げないようになんなの何なのか、外に出てもずっと私の手をぎゅっと握ったまま、リーマスはずんずんと先に進んでいった。

 ・・・なんか私よりリーマスが不安にしてるみたい。

 なんとなくそう思ってしまって、私はほくそ笑みながらリーマスの肩をつついた。


「ねえねえ、もしかして心配してんの?」

 冗談半分に訊く。
 調子に乗ってるんじゃないと叩かれると思った。

 しかしリーマスはぎゅっと眉を寄せ、なんで苦しそうな顔をした。


「当たり前でしょ。●●の人生にかかわることなんだから」

 訊かなければよかった。

 そう思ったのは、あまりにリーマスが真剣だったからで、私より私のことを思っていたからで、それに気づいてしまったから。


 顔が熱くなって、私は返事をしないまま俯き、黙り込んだ。

 もくもくと会話もないまま歩く。触れている手のひらだけが変にむずがゆかった。



 目的の場所にたどり着き、門の前で立ち止まる。

 人で溢れかえるその場所には、歓喜と悲哀の声が入り混じっていた。


 ここまで来てまた帰りたくなってくる。

 私がいつまでもそこで足踏みしているのを見たリーマスは無理に促しもしなかった。


 けれど、ふと何かを思い出したように彼が声を上げたので、私は彼の顔を見上げた。

「結果を見た後、ちょっと話したいことがあるんだけど、いい?」

「え・・・うん」

 私の顔色を伺うようなその言い方に違和感を感じた。



 そしてようやく決心のついた私。

 リーマスの手を離し、そっと大きな掲示板に歩きよった。

 喜びで跳ね上がる人を掻き分け、目の間に立つ。

 大丈夫。やれることはやった。大丈夫。
 それでもうるさく鳴る心臓を押さえ、ひとつひとつ、ゆっくり、番号を追っていき・・・。


 私が驚愕で目を丸くしたと同時に、後ろからがばっとリーマスが覆いかぶさってきた。

「おめでとうっ!●●!!!」

 おめでとうおめでとうと、呆然とする私を前から強く抱きしめながら、リーマスがわしわしと頭を撫でた。

 横目でもう一度掲示板を見れば、そこにはやはり堂々と私の番号。


 徐々に徐々に実感が沸いて、私も涙ぐみながらリーマスに抱きつき返した。


「やった!やったよ、リーマス!」

「うん、うんっ、おめでとう●●っ」

 熱に浮かされた私たちは、変わらず喜び跳ねる人たちの間でずっと抱き付き合っていた。


「そうだ」

 リーマスが私の両肩をに手を置いたまま、名残惜しく離れた。
 喜びでくらくらとする頭と視界でリーマスを捕らえる。

「合格でも不合格でも言いたかった」

 リーマスは一瞬躊躇うように息を呑み、それを吐き出して、優しい光を宿した鳶色の瞳でじっと私を見つめた。



「●●・××さん。僕と―――」






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