「ハンカチは?」

「持ったよ」

「筆記用具は?」

「持った」

「ホッカイロは?」

「さっきリドルが三つ目渡してくれたよね」

「じゃあもう一個・・・」

「もういいよ」


 受験当日。

 昨晩はリドルに早く休めと言われて、勉強したい気持ちをこらえながら早く寝た。リドルにいつもより激し目にたたき起こされたけど、寝起きは最高。

 ずいぶんと余裕のある時間に準備も整え、早め早めにしていて損はないだろうともう家を出ようとしていたところだったけど、どうにもなぜかリドルがそわそわとさっきから「○○は持ったか?」とか尋ねてくるので行くに行けない。時間はあるからいいけどさ。


「いくつ持ってても損はしないだろ?」

 はい、と四つ目のホッカイロ。

 それを苦虫を噛み潰したような顔で見て、その次にリドルを見上げた。至極まじめ。

「・・・損にはならないけど、無駄にはなるんじゃないかな」

 聞こえるように呟くけど、すでにリドルは私の鞄をこじ開けてホッカイロをねじ込んでいた。め、迷惑。

「ありがとう」

 ため息混じりに言えば、リドルはぽんぽんと頭をなでてきた。
 たまにバカなことをしてくれるこいつのおかげで緊張も和らぐよ。



「――じゃあ、そろそろ行ってくる」

 背を向け、冷たいドアを押し、背中で彼のいってらっしゃいを聞きながら白ばんだ世界に身を投じた。



 自分の住まいから一歩また一歩と離れるごとに、何かが肩に重くのしかかり、足を止めたくなるような願望に見舞われる。

 それを振り払いながら踏みしめる。

 ・・・ふと、そういえばリドルはホッカイロを私には一つも直接持たさず、すべて鞄に押し込んできたということを思い出し、一つも使用しないのはさすがにもったいないと鞄を開けた。

 散乱するホッカイロを見て、ついまた苦笑がもれた。
 最後にリドルが入れたものであろう、一番上の少しまだ冷たいホッカイロを握り取る。

「・・・?」

 そこで変な違和感。

 何の気なしにホッカイロを裏返し・・・唖然とした。


 そこには、ふっぎらぼうにセロハンテープで貼り付けられた、濃紺の勉学のお守り。


 今年こそ詣でなきゃいけないのに、余裕がなくて参拝できなかったのを私は数度リドルに嘆いていた。

 そういう彼はというと悔し涙を流す私を尻目に、元日に友人らと初詣に出て・・・。


 そうか、そういうことか。

 滲むお守り。


 あの不器用で意地っ張りな男は私のために参拝し、ましてやお守りまで買ったなんて直接口にすることを恥じたのだろう。彼のことだから、本当に友人らとともに参拝したのかどうかも怪しい。

 ぐしぐしとハンカチで涙をぬぐい、少しずつ温まってきたホッカイロをぎゅっと握った。


 終わったら、これをネタにリドルをからかってみよう。

 リドルが怒ったら、心のそこからありがとうを言おう。

 桜が咲いたら、からかい、お礼を言って、この大好きを伝えよう。






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