葉君が倒れ、ゴーレムがまた作動し始めた。

 私たちはリゼルグ君の天使に乗って空へ舞う。


 一度は蓮君とホロホロ君を地上に残してきたのだけど、中にルドセブ君の妹がいるそうなので本気でゴーレムを壊すことができなかった。だから彼らをリゼルグ君は回収した。


 私は涎をたらしている葉君の傍らに膝を抱えて座ってる。

「・・・」


 ハオは、きっと中に女の子がいるのを知っていたはずだ。なのにゴーレムをスピリット・オブ・ファイアに食べさせようとした。


 隣のルドセブ君は不安げに表情を暗くしている。


 私は後ろを見た。

 ゴーレムは攻撃は一切してこずに、ただ一定の距離を保って私たちの後ろを飛んできている。


 意味のないため息をついた。


「ため息をつくな」


 誰にもばれてないと思っていたのに、私に背を向けていた蓮君が鋭い声で言ってきた。


「ごめん、なさい」

 萎縮して、私は膝を強く抱く。

 蓮君は何も言葉を返してはくれなかった。

 さらに責められなかったことに安心して安堵するけど、今度は頭にすごい視線を感じる。


 ホロホロ君だ。

 恐る恐る顔を上げると、やっぱりホロホロ君は私を凝視していた。なんでパンツしか履いてないんだろう。


「あの・・・」

 なにか?

 そう問おうとしたら、ホロホロ君が先に口を開いた。


「お前、ハオに捨てられたのか?」

 特に深い意味はなかったんだと思う。それはホロホロ君の表情から伺えた。

 ただの疑問。敵のチームの一員に対する好奇心。


 でもせっかく落ち着いた私の心臓は激しく動いて、おかしな汗が出てきた。


 言葉が見つからなくて、泣いちゃだめなのにまた涙が滲んできて、私は顔を伏せた。


「あ、いや!そんな意味じゃねえんだけどよ!いややっぱりそういう意味だけど!」


 ホロホロ君がわたわたと焦ってるのがわかった。

 そして次には何かを強打する音とホロホロ君の悲鳴が聞こえた。

 驚いて顔を上げると、蓮君がホロホロ君の・・・急所に拳をぶつけていた。


「これだから貴様はデリカシーがないといわれるのだ」

「だ、だって気になるだろぉ!ハオ組にただの女がいたっていうその理由が!」

「そんなことはどうでもいい。この女が俺たちに害をなさないのなら気にすることでもない」


 ふん、と鼻を鳴らして蓮君は、急所を押さえて涙目でわめくホロホロ君を無視し始めた。

 もしかしてこれは、私に気を遣ってくれたのかな。


 つんと向こうを向く蓮君が、なぜかハオと重なって見えた。


 また後日、お礼を言おう。





 月も高くなったころ、とうとう動きを起こした。

 ルドセブ君が、妹に憑いているお父さんを説得するらしい。

 それに反対したホロホロ君が、少しお父さんのことを悪く言ってまた急所を殴られた。しかも蓮君にされたときよりもダメージが大きかったらしく、気絶してしまった。


 大丈夫なのかとおろおろしていると、その一方でルドセブ君は悔しさと怒りの滲んだ表情で涙を流した。


 人間模様。

 霊と生きている人との間にもそれは通用する。
 深い何か。

 ルドセブ君は立ち、ゴーレムに向かって言葉を投げかける。


 父親なら自分の子がかわいくないはずがない。攻撃をしてくるなんて考えられなかった。


 でも予想に反し、ゴーレムから発射された光。


「!」

 目を閉じることもできずに光を見つめる。目の端で蓮君とリゼルグ君が動いた。



 すると瞬きする間に現れた、アフロの後姿。


 彼の左手に現れた大きな石造りの顔。


 その顔の厚い唇からふっと吹かれた息。


 驚いたことにその吐息によって、避けるのは困難だと思われた光線がいとも簡単に弾かれた。




「笑いの風で、吹き飛ばしてやったのさ」



「ハオさま」

「なんだいオパチョ」

 スピリット・オブ・ファイアに乗って僕とオパチョはアジトに向かう。


 ひやりとした夜風が僕の髪を揺らす。


 オパチョはどうやら、僕がゴーレムを逃がしたことに疑問を持っているようだった。


「でも君はもうその答えを出してるんだろう?」

 あの時ゴーレムをあきらめたのは、僕が葉を助けるためだとね。


 その言葉に、僕が心を読んだことに気がついたオパチョは不快そうに顔をゆがめた。


「ハオさままたオパチョのこころよんだ。オパチョハオさまのそのちから、キライ!!!」


 嫌いと言われていい気持ちになるわけがない。

 でもオパチョの心と違わないその言葉。


 それだけでも荒んだ気持ちは落ち着いた。


「オパチョは素直でいいね。だからこの能力のことを知ってるのはオパチョとラキストだけなんだよ」


 僕だってこの能力は大キライさ。

 何の得もない。


「でもハオさま」

 オパチョがまだ気になることがあるような目で見てくる。


「●●はどこに行ったの?どうしてハオさま、●●つれてこなかったの?」


 オパチョはそれなりに●●に懐いていた。はじめのころはあんなに嫌っていたのにね。


「●●はもう帰ってこないよ」

 不思議そうに首をかしげる。

「ハオさま●●きらいになった?」

「いいや」


 嫌いになったんじゃない。●●は好きさ。今でもね。


 でも今の彼女は僕の理想を理解できなかった。あれは僕の知ってる●●じゃない。


 悲しそうに俯いているオパチョ。やはり急にいなくなってしまったから寂しいみたいだ。


 僕はそんなオパチョに笑みをこぼして、静かな声で提案した。



「あとでちょっとしたおつかを頼みたいんだけど。・・・いいね」



 怒涛の数分間。

 アフロの人とゴーレムが互いに攻撃を仕掛けようとした。


 でもその攻撃は誰にも当たらず、大きくて角の生えた2つの変なのが仲介をしてしまった。


 1つはアフロの人を容赦なく飛ばして、もう1つはあの激しいビームを軽々と止めてしまった。


 唖然とする私たちの前に現れたのは、2ヶ月前、ハオがプロポーズしてたアンナさんが颯爽と現れた。


 彼女の隣にいる白衣を着た人の腕の中にはあの小さい男の子もいる。

「ケンカ、両成敗よ」

 人間を突き飛ばしたのに悪びれもなく言うアンナさん。

 美人だし、スタイルいいし・・・きっとハオの言う『強い』人なんだろうな。


 また落ち込んで私は下を向く。だから私は弱いって言われたんだ。


「あんたもいつまで寝てんのよ、葉」

 さっきまで遥か地上から聞こえてきていたアンナさんの声がすぐ近くで聞こえたと思ったら、葉君の潰れたような悲鳴が上がった。

 見ると、アンナさんが葉君の腹の傷を踏みつけているところだった。


 悲鳴を上げた葉君はまたそのまま気絶してしまう。

「あら。あたしが来たからってそんな安心しなくていいのに」

「・・・」

 恐ろしい。

 こう思ったのはきっと私だけじゃないはず。

 私が青ざめた顔でアンナさんを見ていると、この視線に気づいた彼女の目が私を捉えた。


「・・・」

 無言でじっと見つめられる。

 すると、アンナさんが乗っていた大きな女の人の、胸の上にさっきの白衣の人と共に乗っていた小さい男の子が声を上げる。



「き、君は、前にハオと一緒にいた!」

 指を差されて驚かれる。

 アンナさんは腰を抜かしてしまった小さな男の子を一瞥してからまた私を見た。

 何を言われるのかとびくびくしてたけど、彼女は何も言わずにまた地上に戻っていった。


 私は体を乗り出して下を見る。


 驚くことにゴーレムの顔の部分が開いていて、その中にはルドセブ君の妹と思しき女の子が気を失っていた。

 皆はその女の子じゃなくて、そのすぐ横をじっと見つめてる。私は目を凝らしたけれど何も見つけることはできなかった。

 でもその間にも話は進んでいて。


「ミュンツァーが・・・!」

「ゴーレムを消す!?」

「博士の意識が戻ったのか!?」

 蓮君、リゼルグ君、ホロホロ君が口々に何かを言うけれどやっぱりわからなかった。

「父ちゃん!!!」

 ルドセブ君が叫ぶ。もしかして、ルドセブ君たちのお父さんがいるのかな。


 みんなの視線をもう一度辿るけど、やはり何もない虚空。

 私には見えなくて皆には見えるもの。霊か。


「・・・」

 アンナさんが来る前、アフロの子が『殺したのは自分だ、それがなんだ』と開き直っていたけれど、それはきっとルドセブ君のお父さん。

 目の前に自分の両親を殺した張本人がいたら、私はどうするだろう。って、事故死だからどうしようもないんだけど。


「おまち」

 アンナさんが何かを引き止める。


「たしかにそれを押したらゴーレムは崩壊する。でも誰がゴーレムを止めに来たと言ったの?」

 一間の沈黙。


「だってそんなに強いのに壊しちゃったらもったいないじゃない」

 アンナさんは私が見る、はじめての微笑を浮かべた。



「ゴーレムはハオをぶっ倒すために、あたしがいただきに来たのよ」






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