気分が悪い。 もちろん体調的な面も気分的な面も含めて。 帰って来たハオに呼び出された私は半ば強制的にみんなの集う下に連れてこられた。 嫌だったから必死に抵抗・・といってもドアに鍵をかけて隠れるくらいだけど・・したのに、ドアのぶは壊して入ってくるし、ベッドの下に隠れてたの一発で見つかるし。 わめいて暴れたけど、まるで、はいはいと親が聞き分けのない子供をあやすように結局引っ張られてきてしまった。 私は、ずんずんと輪の真ん中まで私まで連れて行こうとしたハオの手を振り払って、今現在端っこにうずくまってる。目の前にはザンチンさんの大きな体。 集会なら私は別にいなくてもいいじゃん。戦うわけじゃないのに。 「ハオさま。いまタオレンいきかえった」 丸い、よくわからない台に座ったオパチョ君が言う。『いま』って、どうしてわかったんだろう。ていうか、生き返ったってなに? 「―――となると、葉様の辞退はこれでほぼ確定したということになりますね」 葉様・・ハオの弟か。 辞退って、もしかしてシャーマン・ファイトから辞退するってことかな。タオレンって人が生き返ったらどうして葉君が辞退するんだろう。わかんない。 ふてくされながらも私は顔を上げず、ただコンクリート片の散る床を睨んだ。 ラキストさんのさっきの言葉にザンチンさんが不満そうな声を上げ、続けて、いつの間にか退院したペヨーテさんが、エックスなんとかってところを潰しにいくと提案。 ペヨーテさん大丈夫なのかな。 気になって少しだけ顔を上げると、ちょうどハオが静かに口を開いた。 「・・・その必要はないよ」 おもわず視線がハオに移る。 「葉の狙いは僕一人だ。いずれにせよ、シャーマンキングになるのは僕という結果に変わりはないからね」 自信・・・じゃ片付けられない。ハオの表情に躊躇いや疑問などはなく、ただ来るべき未来をただ口にしているだけのようだった。 そして誰も否定しない。 ・・・当たり前か。見てればわかる。皆は自分がシャーマンキングになるために、このシャーマン・ファイトに出場してるわけじゃない。ハオをシャーマンキングにするために参戦してる。 私は・・・、私は何なんだろう。 ハオのあの圧倒的な力はすでに目にした。 きっとハオの言葉に間違いはない。 シャーマンキングになるのはハオ。 私はまた視線を下げた。 ハオの言葉の後にまたオパチョ君の不思議な台詞があった。 「●●。散歩でも行こうか」 ザンチンさん、ペヨーテさん、ターバインさんはあの集会とも言わぬ集会が終わってからすぐに姿を消した。 どうやらビルさんとブロッケンさんの場所に行くらしかった。 私も、立ち去ろうとするザンチンさんたちの後ろにこっそりついて部屋に戻ろうとしたけど、ハオのその言葉に呼び止められた。 ザンチンさんの複雑そうな苦笑が見えたけど、彼らはさっさとここから立ち去ってしまった。 「今日は天気がいいからきっと星がよく見える」 「・・・」 ハオの顔を見たくない。 ただその一心で私はハオに背を向け続ける。 花組の3人が目の端でおどおどと立ってる。 「ねえ、●●」 呼んでほしくない。 「ハオは・・・っ」 彼に問いたくて、私はあふれ出てくる疑問を喉まで導いて振り返った。自分の中の恐怖に負けないように無理矢理目を吊り上げて。 でもその疑問はそうそうに薄れて消えてしまった。 振り返ったときにハオが見せた、今まで見たこともないような笑み。歓喜でも悲哀でもない、そんな笑み。 強張った肩から力が抜けて、私はどうしようもなく突っ立った。 「・・・散歩、行こうか」 私がそう言うと、ハオは短く「ああ」と返した。 私たちはスピリット・オブ・ファイアの左手に乗る。 カンナちゃんたちが心配そうに見てたけど、私は気づかないフリをしてきてしまった。 「・・・」 互いの沈黙。 私は目の前の夕日を睨んでその空気を耐える。 そういえば前も夕暮れ時に散歩に出かけたな。 そのときとはまるで全部が違う。散歩はちゃんと歩いていったし、この沈黙の気まずさの種類も違った。 「――2ヶ月前を思い出すね」 ふとハオが漏らす。 「あの時もたしか夕暮れ時だった」 「・・・」 同じことを考えてたのか。 私は瞼を伏せた。 「僕が●●への気持ちに気づいたのもそのときだったよ」 「は?」 思わず顔を上げると、ハオは珍しく照れたように顔を伏せた。 でもすぐにいつもの表情に戻って私を見た。 「僕は君が大事だ。・・・だから聞いてほしいことがある」 どきりと心臓が跳ねた。 台詞の前者にも後者にも。いや、どちらかというと後者のほう。あのことだ、と反射的に理解した。 とっさにハオからスピリット・オブ・ファイアの手のひらに視点をずらす。 「・・・●●は僕がシャーマンキングになって、しようとしていることを聞いたね」 誰から聞いたのだか。それとも、察しのいいハオだから少ない手がかりでその結果に追いついたのだろうか。 言葉は返さずに頷く。 『それは嘘だ』。この言葉だけを望んで私は目を閉じた。 間をおいて答えたハオ。 「それにきっと間違いはない」 「っ」 心臓が痛い。こっそりと自分の服の裾を握る。 「僕は人間が嫌いだ。だからシャーマンキングになって、シャーマンだけの世界を作る」 「シャーマンだけの、世界」 私はシャーマンじゃない。だから・・・。 「でも●●にはずっと一緒にいてほしい」 「――」 嬉しいよ、ハオ。 だけど、ごめん。 私にはわからない。 ハオが何を求めてるのか。 私以外の人間は皆死んじゃうのに、どうして私だけ生かされるのか。生きることを許されるのか。 震える唇を噛む。 わからないよ。わからないよ。 私は痛む頭を抱えた。 「・・・・・・ごめん」 搾り出した謝罪。 「え・・・?」 ハオの顔を見れない。 「私には、わからない・・・」 人を殺してまでかなえようという、あなたの理想が。野望が。 目の前が真っ暗になった気がした。 ●●は何を言っているのだろう。 ●●が僕を拒絶した? どうして、どうして。 ●●。君は僕を受け入れるはずだろう? なのになぜ突き放す。 君には生きてほしいのに。大事だから、好きだから。 もし人間がいなくなれば、僕はずっと誰にも邪魔されずにすごせる。もちろん君も。 苦しそうに頭を抱えている●●はまるで何かの痛みに耐えているかのよう。 「・・・っ」 痛いのは・・・僕のほうだ・・・っ。 奥歯を噛み締めて、ぐっとこぶしを握った。 ●●が。 「―――」 ・・・●●が、邪魔だ。 僕の理想を理解できない●●なんていらない |