初日最後の試合。これにハオの双子の弟、葉君が試合に出るらしい。 不安で不安で不安で・・・。 知り合いが試合に出るたびに不安でたまらなくなる。さっきのあの試合を見た後だから尚更。 ハオは、葉君は絶対に死なないと自身を持って言うけど、もしも相手がさっきの女の子みたいな人だったらと思うと。 不安は大きくなるばかり。 そわそわしながら会場に行く時間を待っていた。 そしたら不意にノック音が響く。 「●●〜」 マッチの声だ。 私は座っていたベッドを降りて、扉を開けた。 そこにはマッチだけでなく、カンナちゃんもマリちゃんもいた。 「どうしたの?」 とりあえず中に招こうとすると、マッチは笑顔でこの一言。 「買い物行こう!」 「・・・は?」 この人何言ってんだろう。後ろのカンナちゃんもマリちゃんも無反応なところを見ると、この意見に賛成派の側らしい。 「買い物って、今から葉君の試合見に行くんじゃ・・・」 「葉様なら心配ないって言ってたし、大丈夫でしょ」 カンナちゃんまでもが。 「●●、行きましょう」 マリちゃんがめったに見せない微笑みを浮かべる。 「でも・・・」 「行って来なよ、●●」 いつの間にかマッチの後ろに立っていたハオ。 心なしか機嫌がいいのは気のせいか。 「葉のことは君が気にすることじゃないからね」 「うーん・・・」 「●●!あっち!」 「う、うん」 お言葉に甘えてというべきなのか、半分は言い包められた感があるんだけど。 でも前もパッチ村で結局ゆっくりできなかったからな。 ちょっとテンション高いよ。 女の子とお買い物、久しぶりだな。 目の前でキャイキャイ騒いでる女の子たちを見てるだけで和む。 どうせ私はお金持ってないし、見るだけで十分だし。 持ってる物と言えば、前にシルバさんからもらった絆創膏ぐらい。さすがに箱はかさばるからばらして持ってきたけど。ポケットにつっこんでね。 「マリちゃんこのリボンかわいいんじゃない?」 マッチが淡いピンクのかわいらしいリボンをマリちゃんの頭にあわせる。 「黒じゃなきゃイヤ」 眉にしわを寄せてマッチの手を押し返す。 「たまには違うのもいいじゃない」 カンナちゃんは自分の分であろう、ヘアピンを漁っている。 あー、女の子だなぁ。 ほのぼのしてると、3人が同時にこちらを向いた。 え、なに?恐いんだけど。 「●●っておしゃれとか興味ないの?」 マッチが両手にリボンを握りながら問うてくる。 興味がないわけではないけど。 「興味があるわけではないかな」 「なにそれ」 カンナちゃんが呆れたように頭を掻く。 そこから始まった質問の嵐。 「ピアスは?」 「痛いからやだ」 「リボンは?」 「似合わないし」 「ツインテール」 「似合うと思う?」 「指輪!」 「邪魔じゃないかな」 「ネックレス」 「う〜ん・・・」 「化粧」 「やりかたわからない」 「・・・・」 「・・・・」 めんどくさいっていっちゃそこまでだけど、なんというか、今までの生活が貯金を切り崩す生活だったからおしゃれとかやってられる余裕がなかったし。 かわいい服も着たいし、きれいなアクセサリーもほしいけど、いまいち。 なぜか落ち込んでしまった3人に、なぜか罪悪感が沸く。 「ハオ様も●●のかわいい格好見たいと思うんだけどなぁ〜・・・」 「ない」 「そんな即答しなくたって」 だって、今までそんな感じのこと言われもしなかったし、やってもなかったし、今更何に気合を入れるのか。 うん、そうだ。と頷いていると、3人の深いため息が聞こえた。 それから楽しい時間はゆったりと流れた。 お土産屋さんに入ると、手作りであろうその土産物をマッチがことごとく貶してパッチ族の人を泣かしたり、その土産物の人形の顔がツボに入ったマリちゃんの笑いがおさまらなくなったり、カンナちゃんが行方不明になったり(タバコを買いに行っていただけらしい)。 私は何も買ってないけど、ただそこにいるだけで楽しかった。 そして私たちはカフェに入った。 試合中であるからそこはかなり空いていた。 私たちは一番奥のテーブルについて、隣にマリちゃん、正面にカンナちゃん、斜めにマッチという席順に座った。 カンナちゃんはコーヒーを、他の2人はオレンジジュースを注文する。 「●●はどうする?」 ぼーっとしてたらマリちゃんがメニューを差し向けてきた。 「なにが?」 「飲み物」 「私お金持ってないからいいよ」 「オレンジジュース3つで」 「ちょっと」 強引に注文をとったマリちゃん。意外に押すタイプなのね。 「そのくらいアタシが奢るわよ」 カンナちゃんが当然のように言ってくる。 「あ・・・ありがとう」 実際喉も十分に渇いてたから、その申し出は嬉しかった。 何かお返しに渡せるもの・・・絆創膏しかない・・・。 ポケットをあさって落ち込んでる私を見て、カンナちゃんは苦笑いをした。 間もなく飲み物が運ばれてきて、私たちはぽつぽつと雑談を始める。 彼女達の元気な会話をなんとなく聞き流しながら、少しずつ私はジュースを啜った。 「―――そういえば●●とハオ様ってどこまでいってるの?」 「うっ、ゲホゲホ!」 突然の話の振りにジュースが変なところに入った。 しばらく咳き込んで、私は話しを振ってきたマリちゃんを見る。 「ねえ」 心なしか目が輝いてる。女の子って本当にこういう話好きだよね。私もか。 「アタシも知りたい!ね!カナちゃん!」 体を乗り出してくるマッチ。変なこと言わないでよ。 「気になるっていえば気になる」 カンナちゃんまで。 じっと、無言で私の答えを聞く体勢に入る。 なんか恥ずかしくて、私は目をそらしジュースを飲む。 「・・・」 誰も何も言わないので、ちらりと彼女らの顔を見ると、にやにやにやにや。効果音がつきそうなほどにやけてる。 私は唇でストローを噛んで、無駄に姿勢を正した。 「・・・どこまでっていったって、別に付き合ってるわけじゃないし」 「「「は?」」」 あれ、知らなかったんだ。 お互いはっきり告白したわけじゃないし、付き合おうとかも言ってもないし聞いてもないし。 そのことを言うと、3人は今日一番の呆れ顔を見せた。 「マリ、信じられない」 「なんで!?どうして!?」 「でもハオ様完全に・・・」 マリちゃん、マッチ、カンナちゃんが口々に言う。 「でもでも、●●はハオ様のこと好きなんでしょ?」 この子は何てことを言うんだ。 私は苦い顔をしてマッチを睨んだ。 「そ、そりゃあ、嫌いじゃないけど・・・」 ストローを咥えるけど、もうジュースは入ってなかった。 「照れない照れない。ハオ様も完全に●●にベタ惚れだし」 「・・・」 別にハオの気持ちに対して不安があるわけじゃない。かと言って、ハオが私ことを好いてくれてるという自信があるわけでもない。 ただそれ以上に不安なことがあるというか。 「・・・でも、ハオ何考えてるかわからないし、最近――」 恐い。 「最近?」 「あー・・・。あんまり喋ってないし?」 なんで疑問系。心の中で自分につっこむ。 変に思われないか冷や冷やしたけど、彼女達は納得してくれたようだ。 「でもハオ様さっきすごかったよね」 すごかったって・・・すごく嫌な響きなんですけど。酔っ払って裸踊りとか。うわ、引く。 「●●がなかなか帰ってこないから、すごくいらいらしてたの」 マリちゃんがストローで氷をつつく。 ていうかなんでハオがいらいらするんだよ。 「どうして?」 そう訊ねると3人はニヤリと頬をゆがめた。 答えてくれるのかと思ったら、決定的なことは教えてくれず、ただカンナちゃんが。 「ハオ様独占欲強いからね」 とだけ呟いた。 「●●」 扉を開けて入ってきたのはハオ。 前から本当に思ってたけど、ハオノックしないよね。 私たちが帰ってきたのはついさっき。そろそろ試合も終わるだろうからと、闘技場には寄らずにそのまま4人で帰ってきた。 すると、他のメンバーはいるのにハオだけいない。 私も特に気にせずにいたわけだけど、いつの間か帰って来ていたようだった 「ハオ。お帰り」 軽く笑うと、ハオも微笑み返してくれた。 「ああ、ただいま。起こしちゃったかい?」 中に入って扉を閉める。 すでにベッドにもぐりこんで寝る準備をしてたけど、眠れなくてごろごろしてた。 「ううん」 それだけ言うとハオは安心したように笑った。 ベッドの傍らまで寄ってくると、彼はベッドの隅に腰掛けた。 ああ、そういえば葉君は大丈夫だったのかな。 ハオを見ると、ハオは手を伸ばしてきて私の乱れた髪を梳きだした。 「葉なら大丈夫だよ」 「そっか」 くすぐったいような柔らかい感覚が気持ちよくて、私は瞼を伏せる。 ねえハオ、何考えてるの?私には教えられないことあるんだよね。 恐いよ。 頭を撫でていた手がするりと滑って頬に重なる。 目を開けるとハオの唇が瞼の上に触れた。 そして次に唇に・・と近づいてきて、私はそれが触れる寸前に言葉を発した。 「ハオ」 「なんだい」 ハオが喋るとその息が唇にかかる。 「・・・」 「●●?」 「・・・明日試合だったよね」 私は頬の上にあるハオの手に己の手を重ねた。 「聞いたのか」 「うん」 さっきカンナちゃんが教えてくれた。 「・・・」 死なないでね、この気持ちよりも、人を殺さないでっていう気持ちのほうが強い。 ハオはそんなことしないってわかってるけど。 「がんばってね」 それだけ言って、私はそっと目の前の唇にキスをした。 ハオは驚いたように目を見開いて、唇が離れたあと照れたように笑った。 「ああ」 ハオに強く抱きしめられて、私は、こんなときがずっと続けばいいと密かに願った。 |