※キス裏注意警報 僕はちょっと気にしすぎかな。 ●●だって結構しっかりしてるし、そんなに世話を焼かなくてもやっていけるとは思っているけど。 まぁ・・・うん。昨日話せなかったからいいよね。 そして考えてる場所も●●の部屋の前なわけだし、ここはもう行くしかない。 「●●」 控えめにドアを開けながら名前を呼ぶ。 「・・・」 前みたいに返事はないけどちゃんと起きてる気配がする。それに今日はあれだけ寝たんだしね。 「入るよ」 部屋に滑り込んで戸を静かに閉める。 ・・・ほんとに反応ないな。 昨日のようにひょこっと顔を覗かせると、●●はやはり昨日のようにベッドに寝転がっていた。違うのが●●の体の向き。入り口に背を向け、壁のほうを向いて寝ている。 寝てるフリをしているのだろうが、体が強張っていて狸寝入りであることがばればれだ。 「●●?起きてるんだろ?」 すぐ後ろまで行って上から顔を覗き込む。 自分の顔に影がかかったのがわかったのか、不自然に閉じられた瞼がピクリと反応する。おまけに眉にまで力が入っている。 「●●。起きてくれよ」 「・・・」 つんつんとわき腹をつつくけど、ピクピクと反応しただけでやはり目を開けてくれない。 「・・・そっちがその気ならいいけどね」 僕はまた椅子を引っ張り出してそこに座った。足を組んで●●がなにか動きを見せるのを待つ。でも向こうも耐性があるようで、これでは埒が明かないと悟った。 「●●ちゃんは、おねむみたいだから僕が勝手に話すよ」 ●●にはちゃんと説明しないといけないことがたくさんある。 これ以上間を空ければ話すチャンスを失いかねない。 ●●だって知りたいはずだ。急に飛行機に乗せられたと思ったら落とされて、空を飛んで。 だから僕は『眠っている』●●にひとつひとつ丁寧に説明をした。 前に●●に話したことをもっと詳しく、新しく話さなければならなくなったことも、混乱しないように、絡まった糸をほどきながら話した。 でも、僕の理想や身の上は話さなかった。●●にはまだ話せない。いつかは話して●●にも理解してほしいとは思ってるけど。 もちろん、僕やオパチョが心を読めるということも話してない。これはいろいろめんどうだしね。 嘘はついていない。話さなかっただけ。 これらを除いてすべてを話し終えて、僕はふうと息を吐いた。 さすがに何も知らない人間に一から話すのは疲れるな。 さっきと同じでピクリともしない背中は、まるで今聞いたことを必死に頭の中で整理しているようだ。 数十秒経って、その間●●の不規則な呼吸から、やはりあまり理解ができなかったことが伺える。 僕は目を閉じて背もたれに体重を預けた。 衣擦れの音がして、●●が身じろぎしたのがわかった。 「・・・ハオなんか前より優しくなったよね」 ようやく聞けた●●の声。 それがこれ。 目を開けるが、●●はやはりむこうを向いたままだった。 「もちろん前が優しくなかったわけじゃないけど・・・。どっちかというと、甘くなったって感じかな」 そりゃあ、右も左もわからない僕を助けてくれた●●が同じ状況になったらね。 ・・・甘いかどうかはわからないけど。 「ハオがどうしてあんなに讃えられてるのかわかんなかったけど、やっぱりハオって強かったんじゃん。前は普通って言ってたくせに。うそつき」 「う・・・」 どうしてそんな細かい話を覚えてるのかな●●は。女々しいのかな。 ちょっとばかり失礼なことを思っていると、●●は小さく笑ってようやく体を起こした。それでも体は僕の左側の壁をむいてる。 顔は俯けていて表情はよくわからないけど、怒ってはないみたいだ。 ここ最近のくせなのか、●●は体を小さく丸めて膝を抱き、その膝に鼻から下をうずめた。 「いきなりハオいなくなっちゃって、すごくびっくりした」 「はは。泣いた?」 僕のふざけた質問。 ふざけないでと怒ると思ったら、●●は小さくうなずいた。 思わず息を呑む。 「怒って出て行っちゃったのかと思って、ずっと後悔してた」 「●●・・・」 どっちかと言うと怒らせたのは僕のほうだと思ってた。・・・あんなこと、いきなりしたらね。 「でも、こっちに来てもっと後悔した。顔見られたとたんに皆に嫌われちゃうし、ハオもちょっと冷たい時あったし」 これは・・・言葉に詰まる。 僕が何と当たり障りのないことを言おうかと迷っていたが、●●は僕の返答など期待はしていなかったよう。 でも、と囁くように呟く。 その続きを待つがなかなか繰り出さない。そして、ついには顔をすべて伏せてしまった。 何秒だったか何分だったか待って、●●はようやく顔を上げ、さらには僕の目を見た。 「また会えて嬉しかったってのは本当だから」 照れたような笑顔がひどく懐かしく感じた。 自分が言った言葉に恥ずかしさを覚えたのか、すぐに顔を隠してしまった。 「・・・なあ、●●」 そんな●●に僕は言う。 顔を半分隠したままこっちを見る●●。 僕は彼女をじっと見つめたまま、彼女に迫った。 もちろん●●はぎょっとして後ろに下がる。 「な、なに?」 ベッドは壁に密着するように設置してある。だから●●の背中はすぐに壁にぶつかった。 伸びてくる僕の手から逃れようと●●は横にずれようとする。 しかし僕はそれを阻むように、熱い彼女の体を抱きしめた。 腕の中で硬直する小さな体を確かめるように抱く。 「僕は・・・」 僕は君が好きだよ。 口にしてしまいそうになった言葉の続きを無理矢理飲み込んで、身を固めている●●と目を合わせた。 怯えたとは違う、その目が間近で揺れる。 僕はその目の下に小さく口付けた。 びくりと大きく震える体が愛しい。 目に下にまた唇でもう一度触れて、頬を伝い、唇の端で一旦止めてから、唇に自分のそれを押し付けた。 「ん・・・っ」 今までとは違う啄ばむようなキス。 上唇を吸い、下唇を甘噛みする。 瞼をぎゅっとおろし、僕のマントの端を握ってその感覚に耐える●●。 そんな●●を攻めるように、僕は自身の舌で彼女の唇をなぞった。 驚いた●●はとっさのことに艶っぽい声を漏らす。 こんなことははじめてなのか、唇を閉じて抵抗をしようともしない。 ●●の半開きになった唇から舌をねじ込ませて、彼女の舌を絡めとった。 「んんん・・・!」 力の抜けた●●の体を支えて、さらに●●の口内を攻め続ける。 「んぁ・・・っ。ふ・・ぅ」 まるで支柱を失った●●を口付けたままベッドに寝かせる。 すっかり緩んでベッドの上に落ちていた●●の指と指を絡めた。 それに●●はうっすらと目を開けた。潤んだ目が僕の目を捉えると、僕はその目に微笑んだ。 長い間●●の口内を虐め続け、ようやく最後に軽くキスを贈って長いそれを終えた。 ●●の上に覆いかぶさったまま、乱れた息を整える●●を見ると・・なんというか、征服欲がさらに沸いてくるよね。 でもさすがにこれ以上すると本気で嫌われそうだからしないけど。 大分息のととのってきた●●の唇は、いまだにキスの名残で艶が出ていている。それにまた惹かれて、唇を寄せる。 けど、寸でのところで●●の手のひらに阻まれた。 「も・・・もういいじゃん」 目を泳がせ顔を真っ赤にして、小さな声で言う。この台詞も言いながら恥ずかしくなったのか尻すぼみになっていた。 しかたないか。 うんと頷くと●●はそろそろと手を引いていった。 それでも●●はまだ警戒してるみたいで、まだ覆いかぶさってる僕に早くどいてと急かす。かみながら。 でも無視。 僕は彼女の顔を上からじっと見る。 ●●は焦ってきたのだろう。態度には出さないが雰囲気でよくわかる。 「は、ハオ。最近おかしいよ」 おかしい?僕が? 「●●。僕の気持ちは知ってるよね」 うっ、と言葉を詰まらせる。 そして●●から流れ込んできたのは、あの夏祭りのときのこと。 「君の気持ちも知ってる」 目を見開いて、唇をきゅっと結んだ●●は負けじと口を開いた。 「自意識過剰」 やっと出てきた言葉がそれか。 「自意識過剰なんかじゃないさ。だから君も拒まないんだろう?」 少しいじわるな質問だけど本当のことだ。 「・・・でも、私もいつか本当の場所に帰るだろうし・・」 前の世界にいるとき、祭りの日に●●と逆の立場のときに彼女が言いほのめかしたこと。 一線を保てなくなった僕を制した言葉。 「・・・」 あのときは、僕も帰ったときのことを考えて気持ちを言わなかったけど。 なんていうか、まさかまた会えるとは本当に思ってなかったし、実際会えていろいろ爆発しちゃったし。 「なんとかなるさ」 「ごめん、理解できない」 いつまでもどかない僕に呆れた●●は無理矢理上体を起こした。 少し肩を押されてようやく僕も●●から離れた。 「理解できなくてもいいさ」 僕は不満そうな●●に一言そう言った。 |