朝起きたらすでに皆は目を覚ましていた。 時間を聞いたら昼過ぎ。 早起きには自身があったから、まさかこんな時間に目を覚ますことになろうとは。 ハオには「時差ボケだね」ってバカにされたように言われた。朝っぱらから裸マントの人に言われたくない。 「頭痛い・・・」 寝すぎたときはいつもこれだから嫌だ。だからできるだけ早寝早起きしてたのに。 それでも懲りずに出てくるあくびは何なのか。 大きくあくびをしてテーブルにぐでっと倒れる。 お腹すいたなぁ。そういえば昨日から何も食べてないなぁ。いや、おとといか。飛行機でも何も食べなかったし。 ごごごごと空腹を訴えるお腹を撫でる。 小さくため息をついて、そこではっと気づいた。 勢いよく姿勢を正す。 「・・・」 完全に今、自分がいる場所が皆が集まっている場だということを忘れていた。 アットホームな動きをしていた私を、ニタニタしながら見てるマッチとその他。オパチョ君とほのぼのするような会話をしていたハオも口を押さえてプルプル震えてる。 前までとは違うけど、やっぱりこの人数に見られるとひどく痛い。恥ずかしい。もう飽きるほど体験したこの体温の上昇も、どうしても慣れてはくれない。 恥ずかしすぎて私は両手で顔を覆ってテーブルに突っ伏した。 ああもうなんだよ嫌だよ恥ずかしいよ。 せめてお腹の音だけは我慢すればよかった。どれもこれも昼まで寝てしまったせいだ。 過去の自分を責め続け、ようやく気持ちが落ち着いて私が顔をあげたら、皆の注意は私からそがれていた。 ほっと息をついて手を膝の上で組む。 少しの間指を組み替えたり伸びをしたりしていたけど、そろそろ飽きてきた。 この場所にも特に用事もないのに、ハオに来いって言われて来たわけだし。抵抗感も薄れたから来たけどさ・・。 ハオも特に私に用があるわけでもなさそうだし・・・部屋戻ろうかな。 そう思って腰を浮かせたとき。 コトリと目の前に一つの皿が置かれた。 「・・・カレー」 そう、カレー。 ほかほかと湯気を上げて、においだって私の作るルーの安っぽいのじゃなく、こう・・なんていうか・・・深い。 そのカレーを差し出してきた手を伝って行くと、そこには愛想のよさそうな笑みを浮かべたラキストさん。 「●●様、ご昼食です。他の者は先に食べ終えましたので」 「あ、ありがとうございます」 ラキストさんの態度の違いように戸惑いながらも、半分浮いた腰を元に戻す。 「・・・」 食べていいのかな。 ぐう、とまたお腹が鳴って、ラキストさんを見上げる。 ラキストさんはニコニコしているばかり。 ・・・毒が入ってるとかじゃないよね。 私が眉間にしわを寄せてカレーを睨みつけていると、ハオが苦笑をしながら私の隣の席に移ってきた。その後、ちょこちょことついてきたオパチョ君がハオの膝の上に乗る。 「毒なんか入ってないから食べな。冷めちゃうよ」 「どく!どく!」 なんだかこの二人にはいろいろ見透かされてるようで嫌だ。 でもなんだかんだでハオは気を遣ってくれてるのだろうし、まさか毒とか命に関わることについて嘘をつくはずは・・・ないと、思う。 私はハオとオパチョ君を数秒見つめてから次にカレーを見た。 そして私は真横からの二つの視線を感じながらスプーンを手にとって、一口、口に運んだ。 「・・・」 「・・・」 ハオが、どうだどうだと言いたげな顔をしてる。 うん、すごく。 「おいしい、です」 きっとスパイスから作ってるんだろうなぁ。本当においしい。 お腹がすいていたという相乗効果もあって、さらにおいしく感じる。 見られながら食べるのは恥ずかしいけど空腹には替えられない。 もぐもぐ淡々と食べ続けて半分くらいまで食べ終えた。 「・・・」 食べながら、少しだけ不服に感じるところもある。 確か前にハオがラキストのカレーはスパイスがどうたら、って言ってたのを覚えてる。 で、ラキストさんが噂のラキストさんで、そのいい年をしたラキストさんがこんなにおいしいカレーを作れるって。 ハオはどうみてもラキストさんのカレーを絶賛してるし。 はは。そりゃルーのカレーが、愛情溢れるカレーに勝るはずないよね。 別に悔しいわけじゃないし、いいんだけどね。 ・・・やっぱり悔しいです。 でもこんなくだらないことに敵対心燃やしても意味ないしね。 最後の一口を口に放り込み、ごちそうさまと手をあわせた。 ラキストさんにお礼を言うと、彼はいいえと言いながら皿を下げて同時に水のおかわりも注いでくれた。 気が利く人だなぁ。 その水を飲み干して、ナプキンで口を拭く。 そうしていると、隣から生暖かい視線を感じた。 見るとハオがやけに緩んだ顔で私を見つめていた。 「・・・なに?」 「●●・・・。君は」 ハオが緩んだ顔のまま言葉を続けようとしたら、オパチョ君がハオの膝の上に立ち上がってその言葉を遮り、部屋中に響き渡る声量で叫んだ。 「●●!やきもち!」 もういやだ。 いろんな意味で頭が真っ白になった。 ラキストさんの咳払いと、皆のくすくすという殺した笑い声とオパチョ君の自信満々な顔。 やっぱり私は逃げた。 ●●が顔面蒼白の状態で部屋から飛び出していった途端、仲間たちが大声で笑い出した。 僕は、●●が出て行ったほうをじっと見ているオパチョの体の向きを自分のほうに回転させて、現状をうまく理解していないオパチョに言い聞かせるように言う。 「オパチョ。聞こえたことをあまり口にするな。●●がかわいそうだろう?」 「あいつカレー」 「しー」 一応僕にも伝わってくるからね。 できるだけ●●の心は読みたくないから控えてるけど、うん。たまに流れ込んでくるのはしかたないんだけどさ。 「今度●●に謝っておきな」 「うん」 素直に頷くオパチョの頭を撫でて、床におろした。 さて、励ましに行くべきか、放っておくべきか。 ・・・励ますのはやめとくか。生傷抉りかねない。 考えながら立ち上がって、ドアまで歩いた。 戸を押して、部屋から出る直前に僕は仲間のほうを振り返った。 「そうそう、明日はここを出るから、そのつもりでいてね」 頷く彼らに微笑んで僕は廊下に出た。 部屋に戻って二時間ほどがたった。 おそらく三時か四時ごろ。 窓の外を見ればひどく薄暗く、あまり気味のいいものではない。 ・・・●●は大丈夫かな。 さっき飛び出していったっきり部屋からまったく出てきてないみたいだけど。 「・・・」 様子見に行こうかな。 |