「いいわ!あんたのこと認めてあげる!」

 ビシッと鼻先に指を突きつけられる。

「はぁ・・・?」




 ハオたちが見つけた無人の村。
 窓のない窓の向こうには墓と思しき十字が地面に所狭しと並んでいる、そんな村。
 こんな恐ろしいところに泊まるらしい。信じられない。

 でも私の意見なんて取り入れられるはずもないし、私自身休めるところならどこでもいいって言う考えもあったし・・・。


 ハオに使えと言われた部屋でさっそく寝ようと思っていたら、ドアが蹴破られん勢いで開かれた。

 そして入ってきたのは例の美人三姉妹。

 リンチでも始まるのかと思ってびくびくしてたら、第一声がこれだった。


「いいわ!あんたのこと認めてあげる!」

「はぁ・・・?」

 なんだなんだ?

 私がことの展開に追いつけないでいると、金髪で目の取れた人形を抱いた女の子が静かに言った。

「マリたちはあなたに同情したの」

「同情・・・」

 なんかされるようなことしたっけ。


 まだ理解の追いつかない私に、元気な子がふふんと笑う。


「『おまえ、ハオさまのことすき』だったっけ?オパチョが言ってたの」


 ・・・・・・。


 ぼっと顔が熱くなった。

 反射的に顔を隠そうと、ベッドの枕に顔を埋めた。

 死にたい死にたい死にたい。


「だから同情したの。あーんな野郎どもの前で乙女心晒されて、あたしたちはあんたがかわいそうでかわいそうでたまらなくなったってわけ」


 かわいそうと言う割には声がすごく楽しそうなんだけど。

 顔を少しずらして三人の顔を見る。


 にやにやにやにや。

 もういやだ。

「他のみんなにも『かわいそうだから仲間にしてあげよう』って言っておいたから!」

「満場一致で『イエス』だったの」

 嬉しいけど・・・嬉しくない。

 こんなわけのわからない恥で手に入れた友情って・・・切ない。切ないよ、うん。



「まぁ・・・今まであんたのこと知りもしないで嫌ってたのは悪かったわよ」

 声音が変わったことに気がついて私は顔を上げた。

「でも、今から仲良くしよう、ね?」

 苦笑いと共に差し出された手。
 私はその手と三人の顔を交互に見て、おずおずとその手を握った。


「あたしはマチルダ。マッチって呼んで。で、こっちがマリちゃん。で、そっちが・・・」

「カンナ」

 マッチが続けて紹介しようとしたら、今まで黙っていた女の人は無愛想にそう言った。
 でも前みたいに睨んでくるような素振りはないから、きっと嫌がってはない・・と思う。

「あ・・・えと・・・●●です」

「うん。よろしく、●●」


 ああ、嬉しい。
 さっきは嫌だったけど、やっぱり認めてもらえるのはすごく嬉しかった。

 顔が自然とほころび、私はようやく心から笑うことができた。



 その後少しの間雑談を交わして、三人は部屋から出て行った。

「・・・」

 ほっこりした気分。

 ずっと仲良くなりたいとは思ってたけど、まさか叶うとは思ってなかったし。しかもこんな形で。

 私はベッドに寝転がってさっきの雑談の中で教えてもらった、メンバー全員の名前を頭の中で繰り返す。

 間違えたりしたら失礼だしね。


 ひとりひとりの顔を思い浮かべながら名前を当てはめる作業を繰り返してるうちに少しずつ思考がぼやけていって、いつの間にか眠ってしまった。




 僕は●●の部屋に向かっていた。

 どうやら僕がいないうちに●●たちは仲良くなったようだけど・・・少し不満。

 でも●●の不安がなくなるならそれが一番だけどね。

「・・・」

 ようやく部屋の前について、入る前に、●●となにを話そうかと思いをめぐらす。

 久しぶりに会ったのに、今まで時間が取れなくてなかなかゆっくり話す機会がなかったからな。


 浮き立つ気持ちをに耐え切れず、僕は戸をあけた。

「●●ー」

 ・・・。

 返事なし。
 外行ったのかな?

 でも気配は部屋に。


「・・・寝てるのか」

 一気に下がるテンション。なんだよ、つまらないな。

 でもこのまま帰るのも惜しい。せっかく会いに来たのに。

 僕はそっと中に入って扉を閉めた。


 足音を忍ばせながら顔を覗かせれば、ベッドに不自然なふくらみ。

 やっぱり寝てたか。

 思わず頬が緩んで、僕はすぐ近くまで寄った。


 間抜けとも安らかとも取れる、安心しきった寝顔。

 この顔を見ると、飛行機でのあの寝顔はまだまだ緊張していたのだと思わざるを得ない。


 部屋にある机の備え付けの椅子を引っ張り出して、僕はそれに腰掛けた。

 ●●も上を向いて寝ているからちょうど良い。

 何がちょうどなのかわからないけど。


 僕は手を伸ばしていつかのように、顔にかかっている髪をどけた。

 くすぐったかったのか少し眉をひそめて身じろぎする●●に思わず息を止める。


 だがまったく起きる様子のない彼女にほっと胸をなでおろした。

 起きなかったおかげで少しまた気分が高まってくる。僕は髪をどかすだけじゃ飽き足らず、●●の髪をいじくりだした。


 自分の髪とは違う、女らしい髪質が気持ちいい。

 何度も彼女の髪を指で梳いて、起きそうになったらぴたりと動きを止めるというのを繰り返す。



 触れているのは飽きなかったけど、あまりに長い間居座るのも気がひけるからそろそろ部屋を出ることにしよう。

 僕は椅子を片付けて最後にまた●●に寄った。
 腰をかがめて、彼女の頬に手を添える。


「・・・」

 口にしようか。いや、さすがに寝てる人間に口は・・・。


 しばらく迷ったけど、結局僕は額に軽く唇を寄せてから部屋を出た。






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