「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」

 長い夜を越えて朝を迎えた。

 今日葉たちはリリララの場所へ向かうはず。僕はその後始末をしなくちゃいけないからね。


 地上に降り立ったあと、昨夜のこともあって機嫌が最高に悪い●●はラキストに任せた。

 朝●●に、今日は待ってるように告げたときに、涙目になりながら「行かないで」と言われたときは危なかった。いろいろ危なかった。

 僕だってこの状態で置いていくのは不安だけど・・・連れて行くわけにもいかないからな。
 彼らにはヨンタフェのカフェでもどこででも待っててもらう。


 完全にふてくされてる●●を一瞥して僕は発った。



 ぞろぞろと街に連れ立っていくこの集団。

 すごく・・・恥ずかしいです。

 わざと遅れてついていくとラキストさんが私を待っていてくれた。
 私が不審な目でラキストさんを見ると、彼は軽く咳払いをする。

「ハオ様に●●様のめんどうをみるようにと命じられましたので」

 何で私まで様付け・・・。一気に鳥肌立ったよ!気持ち悪い!

「あの、なんで様をつけるんですか」

 気持ち悪いからやめてください。

「ハオ様の恩人というからにはぞんざいな扱いをするわけにはいきませぬ」

 ほー。あなたたちの『ぞんざい』の範囲を聞いてみたいわ。

「別にあなたたちに何かしてあげたわけじゃないんですから、様とかやめてください。合わないので」

 そう言うとラキストさんは黙ってしまった。

「・・・それに私のこと嫌いなら、別に世話とかぞんざいとか気にしなくてもいいじゃないですか」

 嫌味も加えて言ってやった。私にしてはがんばった。もうおなかいっぱい。



 そろって小さなカフェに続く。店員さんびびってるよ。

 皆が思い思いの席について飲み物や食べ物を注文する。
 もちろん私がいけるような場所はない。

 ・・・外で待ってよう。

 私はハオが帰ってくるまで外で待つことに。


「●●様、中へ」

「・・・」

 くるりと後ろを向いたら巨体が。ラキストさんが。

 これはもう泣くしかない。

 引きずられるように中に入って無理矢理席につかされた。


 左にラキストさん。右にオパチョ君。他の人よりもましだけど・・。

 ちなみにまん前にはラグビー?アメフト?わかんないけどそういう格好した人で、私の右斜め前が暑苦しい服を着た人。ゴーグルしてる。で、左斜め前がちっさいやつ。深くまでマントみたいなのかぶってるから顔はわからない。


「・・・」

 せめて女の子に来てほしかったなぁ・・・。

「●●様、何か飲み物は・・・」

 様・・・言われるたびに鳥肌が立つ。

「いいです」

 喉も渇いてるしお腹もすいてるけど、この空間で食べる勇気がない。

 緊張して食べれないってこと滅多にないよね。

 私は下を向いてこの時間を乗り切ることにした。
 隣の席でオパチョ君がジュースをストローで吸ってる。いいなぁ。


 私はため息をついて手をぎゅっと握った。

 私、なんでここにいるんだろう。
 こっちにきて何度も思ったこと。

 最近時間ができればこのことばっかり考えてる。でもいくら考えても答えなんて出ない。



 思い出は思い出のままとっておけばよかった。これも何度後悔したことか。

 向こうにいる間はこんな怖い思いすることもなかったし。ただハオと買い物行ったり海に行ったりお祭りに行ったり。

 ずっと遠い昔みたいだ。

 私がその思い出にひたっていると、オパチョ君がぴくりと動いて私のほうを見たのが横目でわかった。



「おまえ、ハオさまとなかいい」

 疑問系ではなく断定。
 オパチョ君は私をきれいな目で見てた。純粋で汚れなんて知らないような目で。

 私がその目にひっかかりを感じて見つめていると、オパチョ君はさらに続けた。



「おまえ、ハオさまのことすき」

「・・・・・・」

「「「「「・・・・・・」」」」」


 えと・・・。
 この子は今なんて・・・。

 頭の中が真っ白どころかもう何色かもわからない状態。

 ラキストが横で咳払いをしたことで意識が戻って、熱が一気に全身を駆け巡った。

 椅子を蹴り倒しながら席を立つ。


「もういやだああああああ!!」

 そして逃げた。



 そして残された者たちはというと。

「・・・まるで嵐が過ぎたようだ」

 ●●が逃げていく際に●●が通った場所のほとんどの椅子を蹴り倒し、飲み物を運んでいたウェイターにぶつかって近くにいたザンチンにそれがシャワーとなって降りかかり、たばこを買いに行って入り口まで戻ってきていたカンナを突き飛ばし、と大惨事である。


 すべての人が唖然としている中、マチルダだけは爆笑していた。

「アハハハ!何あの子!マジうけるんだけど!オパチョーっ、あれは言っちゃダメだって〜!アハハハハハハ!!」

 当のオパチョは相変わらずジュースを飲んでいる。

 マチルダの笑い声を背景に、転んだときにぶつけたのであろう頭を押さえてカンナがはいってきた。


「今のなに?・・・て、アンタなに昼間っから酒かぶってんのよ」

 上から下まで酒臭いザンチンを見てカンナが眉をひそめる。

「これはあいつが・・・」

「酒臭い。早く拭け」

「ターバイン!お前も見てただろ!?これは不可こう・・」

「うるさい連中だ」

「ああ・・・これだから下等生物どもは・・・」

「だああ!」


 ついに収拾のつかなくなった仲間達にラキストは注意もせずにため息をついた。



 もう嫌だ。もう本当に嫌だ。なんでばれた。じゃなくて、どうしてみんなの前でばらされなきゃいけない。

 恥ずかしいし恥ずかしいし恥ずかしいし、絶対ハオに告げ口される・・・。ぜったい言っちゃうよあの人たち。

 黙っててなんて頼んでも絶対きいてくれないよ。


 終わった。自分終わった。


 そしてここはどこ。
 勢いで走ってきちゃったから帰り道もわかんないよ。わかってても帰らないけど。

 私は足を止めて周りの町並みを見渡した。雰囲気も歩いている人もまったく違う。

 やっぱり日本じゃないんだと実感する。


「・・・」

 外国に来るのは夢だったけど、なんだか成り行きが成り行きだから素直に楽しむことができない。


 それに今、人生で一番一生懸命走った後だから死ぬほど疲れてるし。

 走って・・・そう、走って赤くなった頬を冷ましたくて、私は傍らにあったベンチに座った。


 背もたれに体重を預けると、体がどっと疲れを感じた。こんなにリラックスして座ったのは久しぶりだ。

 硬い椅子が、どんな柔らかいソファーよりも安らげるものになるとは思わなかった。

 この庶民的な空気があまりに体に馴染むので、徐々に眠気が襲ってくる。

 こんなところで寝るのはダメだと思いながらも、意思に反して瞼は重くなってゆく。


 かくんと一度、舟をこいだ。



「お嬢さん、こんなところで寝ては危険ですよ」


 ああ・・・誰かが喋ってる。

 さっきまで近くに人いなかった気がしたんだけど。でもまぁいっか。

 うつらうつらとした思考で勝手に思考をまとめると、また同じ人の声が聞こえた。


「大丈夫ですか?」


 あまりに近くで聞こえた声にようやくはっと目が覚めた。

 顔を上げると、肩をたたこうと手を伸ばしてきている、何ともかわいらしい顔立ちの少年と目が合った。

 その少年は目が合うとにこりと愛想よく笑う。


「よかった、やっぱり寝てただけだったんですね」

「は、はぁ・・・」

 誰だ?
 なんて思うのは失礼だよね。


 私がぼーっとその人を見ていると、その人はまたにこりと笑った。かわいい子だなぁ。


「あなたも参加者ですか?」

 参加者?・・・そういえば前にも似たようなことを言われたような・・・。

 いつだったっけ、と首をかしげていると男の子は違う風に解釈してしまったのか、困ったように謝ってきた。


「すみません、僕の勘違いだったみたいで」


 訂正するのも面倒なのでそのままにしておこう。


「あ・・・いえ・・・」

 私も苦笑を返す。

 すると少年はあっと声を上げた。

「僕もう行かなくちゃ」

 急いでたのか。なんか悪いことしちゃったな。今度から路上で寝るのは止めておこう。あたりまえか。

 すぐに去ってしまうのかと思ったら、少年はまだ目の前にいた。

 じっと目を見られる。


「・・・なんだかあなたとはまた会えそうな気がする」

 なんともくさい台詞。

 彼はそう言うと右手を差し出してきた。握手だろう。
 私も戸惑いながら手を出す。


「僕はリゼルグ・ダイゼル」

「あ・・・××●●です」

 軽く握手を交わした。

「今度会ったときは、またお話しましょう」


 そう言い残して彼はにこやかに去っていった。


「・・・」


 リゼルグ君かぁ。キザな子だったな。

 また会えそうな気がするって・・・なかなか・・ねぇ。人生で言うか言わないか・・・。


 リゼルグ君の背中が完全に見えなくなるまで見送って、私は空を見上げた。


「変な人ばっかり」

 このくらいの悪態は許してくれるよね。




 空を見上げて座り続け何分だか何時間だかが経って、ハオが息せき切らせて私の前に現れたのはまた別のお話。






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