●●がトイレに行くのを見送って僕は椅子に落ち着いた。

 他の仲間達のざわついた心音が聞こえる。

 そんななか、ただオパチョだけがいつもどおりの小波立たない声で予言をした。

 それに違わずに数秒後、ゴルドバの顔がモニターに映し出される。


 眠っていたほかの参加者たちも目を覚ましだし、静かだった空間が一瞬にしてどよめきに包まれた。

 ゴルドバもいろいろ言っているが、結局のところパッチ村まで自力で来いとのこと。


 ちっちぇえな。


 こんなことで選手を振るわなくても弱いものはどうせ死ぬのに。

 嘲笑が漏れた。

 オーバーソウルであった飛行機が消滅し、僕らの体は宙に投げ出された。


 僕はすぐにスピリット・オブ・ファイアをオーバーソウルし、仲間たちを掬い上げた。

 空を見上げると無数の星々。星がきれいに見えるところはいいな。


「――さて」

 奇声を上げながら地に落ちていく葉たち。

 空を飛ぶ持ち霊を持たない葉たちには難しいかな。でも、このくらいの試練は乗り越えてもらわなくちゃね。


 でも彼らは乗り越えるどころか、ホロホロがオーバーソウルで滑空していくのを見て他人事のように感心している。


 あんなちっぽけな巫力じゃあすぐに切れて、地上に真っ逆さまなのに。

 ・・・少し刺激しないとダメか。


 僕は葉たちに話しかけた。

 ホロホロに己の巫力の少なさを知れと意味をこめて言う。思ったとおりに彼は激怒。熱いなぁ。


 僕が下まで乗せてやろうかと提案すると、皆同じ条件だときっぱり断られた。

 うん、これだから周りが見えてないやつは。

 まぁ無理強いすることもないし、葉には自力でがんばってほしいからね。


 地がすぐ目の前にきていることに気がついていない彼らに一言注意をしてから、僕は葉たちから離れた。


「まだまだだな、葉は」

 うやうやしく頷くラキスト。


「●●。さっきのゆるそうなやつが僕の・・・」




 ・・・あれ、そういえば●●、トイレ行ってから帰ってきたっけ。

 あれ、飛行機が消えてから●●の顔見たっけ。

 あれ、スピリット・オブ・ファイアの上で●●の声聞いたっけ。


 振り返って、仲間達のほうを見た。


「・・・・・・」


 やばい。

 ざぁっと血の気が引いて、慌てて僕は周りを見渡した。


 雑魚シャーマンが邪魔でよく見渡せない。

 舌打ちが漏れそうになって、無理矢理それを押しとどめる。


 まさかパッチ族が助けてくれてるとか、他のシャーマンが気づいたとかそんなことは期待できない。


 こんなに焦ったのは久しぶりだ、というか焦ることがほとんどないからこの焦燥感をどうすればいいのかわからない。

 焦りがいっそう大きくなったとき、横のオパチョがじっと下を見ていることに気づいた。

 僕も倣って下を向くと、さっき別れた葉と●●が互いに手を伸ばしあっている場面が目に入った。


 まるでそれが・・・言ってみる相思相愛の図というか、運命的ななんたらというか、とにかくむかついた。


 僕はスピリット・オブ・ファイアの手を伸ばさせて、●●だけを掬い上げた。


「あ!」

 彼女は、間抜けな顔で落ちていく葉にとっさに手を伸ばす。

 それにまたちょっとイラッとした。


「葉なら大丈夫だよ」

 僕を見上げた彼女の顔は落下していたときの名残でひどく青い顔をしていた。


 罪悪感を感じて謝ろうとしたら、彼女は僕から視線をそらして葉が落ちていったであろう場所を見た。


 葉たちが着地に成功したであろう、その証である光と轟音。


 ●●の表情がほっとしたものに変わって、僕のイライラがピークに達した。


「●●、あんまり端によるな」


 そう言い捨てて僕は彼女から離れた。

 いらいらする理由は、いわゆる嫉妬。

 仲間たちは僕が怒ってると思ったのか、少しだけ肩をすくめた。


 オパチョがついてきていないところを見ると、どうやらオパチョは●●の横に残ったらしい。


 何か会話をしているような声は聞こえるけど、内容までは聞き取れない。




 オパチョは数分と経たないうちに僕の元へ駆け寄ってきた。

 それを笑って迎える。

 そして僕は流れのまま仲間たちの雑談に加わった。



 バカ話をしている最中、僕の心の中に流れ込んできた誰かの寂しい気持ち。

 その感情の源を探っていくと、危ないから寄るなと言ったのに端のほうでふてくされたように座ってる●●がいた。


 少しずつ重くなっていく彼女の感情が、分かち合うように僕の気持ちに被さってくる。



 ●●と話したい。

 でも悔しい。



 矛盾した葛藤が解けたのは、これから約5分後。






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