横茶基地。

 次の試験場まで飛行機で移動する。


 僕たちは早々にこの集合場所にやってきた。

 そのためというのは、葉たちに顔見せをするため。



「彼の名はスピリット・オブ・ファイア」

 ホロホロを少しビビらせて、僕の持ち霊を紹介する。

 葉のあの驚いた顔。おもしろいなぁ。


「口の利き方には気をつけた方がいい。未来王――このハオにはね」

 名乗ると、どうやら葉は僕の名を知っているようだった。

 ・・・ああ、前に善と良を遣ったんだったな。


「フン。このオレをさしおいて未来王とは・・・」

 蓮が馬孫刀を構える。

 威勢はいいけど、心が乱れているな。


「キサマは王などではない」

 足を後ろに引いて、一気に僕に向かって刃を突き出してきた。


 ちっちぇえな。

 自分が王になるなんて、自分の実力を知ってから言うんだね。


 スピリット・オブ・ファイアに乗って蓮の攻撃をかわす。

 否、かわそうとしたとき。


 僕と蓮の間に何かがぱっと現れた。一瞬見えたそれは黒くて、人間のような形をしていた。


 僕はもちろん、蓮も驚いて、彼は慌てて刃の軌道を反らした。


 幸いその人間には刃は当たらなかった。

 ・・・て、何で『幸い』なんだ。別に人間が1人や2人死のうと僕には関係ないじゃないか。


 それにしてもこいつ、目の前に現れたのにそれまで気配すらしなかった。


 盛大に尻から落ちていったそいつ。

 受身も取れないやつがどうして・・・。

 僕がいぶかしげに目を細めていると、そいつは呻きながら言葉を漏らした。


「いっだ・・・!」

「っ」

 その声は非常に耳に馴染んでいた声。


 この二週間、深い記憶の中に沈めてきたその姿が脳裏をよぎる。


 よく見れば、その髪や背格好、後姿、雰囲気がまるで・・・。



「――●●・・・?」

 彼女と葉たちが話していたのも関わらず、僕は無意識に名を呼んだ。


「え?」

 振り返ったのは本当に彼女で、●●で、すでに諦めていたその顔だった。


 僕が声も発せずにいると、●●はぴたりと動きを止めた。

 どうしたのかと思っていると彼女は胸いっぱいに大きく息を吸って、叫んだ。



「ぎゃああああああああああ!!」



 叫んだ●●につられて葉とホロホロが奥で喚いている。

 僕はというと、なんていうか、結構傷ついた。


 だって顔見られた瞬間に悲鳴上げられるなんて、そんなに嫌われてしまったとは・・・。



「ばばばば、化け物!」

 ●●は顔を真っ青にして後ろにずり下がった。

 化け物?・・・ああ、そういうことか。


 そこでようやく、彼女が悲鳴を上げたのはこのスピリット・オブ・ファイアに対してだと気がついた。

 僕は彼から飛び降りて●●の前に降り立つ。

 びくりと体を震わせた●●は、怖いのか顔をあげようとしない。

 視線を合わせるようにしゃがんで●●の名を呼んだ。


 はじかれたように顔を上げた彼女。

 その顔はまぎれもなく彼女で不意に感情がこみ上げてきた。


「ハオ・・・?」

「ああ」


 笑顔で答えた僕に、●●はぱちぱちと瞬きをして、少しずつ泣きそうに顔を歪ませた。


 でも彼女は泣かず、勢いよく立ち上がった。


「バカバカ!死んじゃえバカハオ!アホ!ばーかばーか!忘れ物なんかしないでよバカ!!」


 この暴言に僕はぽかん。葉たちもぽかん。


「この変な機械鳴り止まないし・・・て、もう止んでるけどね!あああああああ!」


 急に発狂しだした●●。ぶんぶんと振り回されているその手には、失くしたと思っていた僕のオラクルベルが握られていた。

 僕も立ち上がって彼女をなだめようと口を開いた。が、それは言葉になる前に他の者の言葉によって遮られた。



「ハオ様、お戯れはその辺でやめときましょうよ」

 僕の仲間の声。

 ●●もぴたりと止まってその声のしたほうに目をやる。


 そういえばそろそろ時間だな。このハプニングのおかげで予定が狂った。


 とりあえず僕は●●を担ぎスピリット・オブ・ファイアに飛び乗った。

 ぎゃーぎゃー叫ぶ●●はとりあえずあとだ。



「とにかく、葉。ぼくがわざわざここへ来たのは」

「ちょっと!おろしてよ!」

「君がぼ」

「ねえ!」

「存在だからだ」

「おろしてって!」

「君はもっと強くならなければ」

「ひー!高い!」

「●●!頼むから黙って!」


 やっぱり後回しなんて無理だった。

 ようやく黙った●●を見て、咳払いをしてから唖然としている葉に告げる。


「強くなれ、葉。ちゃんと勝ちのぼってくるんだよ。この、未来王――ハオのためにね」


 僕は仲間たちに先に行ってるように言い、僕は●●の手を引いて人気のないところに行った。

 そして、すっかり落ち着いた●●との間に気まずい空気が流れる。

 とりあえず一番の疑問を●●にぶつけた。


「どうして●●がここにいるんだ」

「わかんない」

 即座に返された答え。

 少しだけいらだったが、僕が向こうに行ったときも理由などまったくわからなかった。



「・・・わかんないけど」

 うつむいた彼女は掠れた声で続けた。


「会いたかった」

 うつむきながらしきりに顔をこする●●。

 こする指の間から水が落ちたのを見て、僕は胸が苦しくなった。


 必死に記憶を埋めようとしてきた僕にそんなことを言って、涙を流してくれるなんて。罪悪感と同時に、開いていた穴が埋まったような気がした。


 僕は●●に手を伸ばして、ゆっくりと震える背中に手を回した。

 はじめは躊躇いを感じたけど、●●がぎこちない動きで顔を埋めてきたのを見て、我慢できずに強く強く力をこめた。


「ごめん」

 耳元で囁くように謝ると●●はふるふると首を振った。


 栓が抜けたようにあのときの想いが溢れ出す。

 一際強く●●を抱きしめてから少しだけ腕の力を緩めた。


 ●●、と名を呼ぶと、●●は目をこすってから僕を見上げた。


 赤くなって潤んだ目で不安そうに見つめてくる。

 僕は右手を●●の頭の後ろに添えて、髪を指に絡めた。そして少し顔を寄せる。

 今から何をするか悟った●●は顔を真っ赤にして目を泳がせる。

 また逃げられるかな・・・と思っていたら、●●はぎゅっと目を閉じた。


 それが愛しくて、腰を抱くもう片方の腕に力をこめた。


 少しずつ、少しずつ顔を寄せて、唇の先が触れたとき。




「ハオさま」

 ビク!

 横のほうから声をかけられて、僕らは反射的に離れた。

 無駄にばくばくとしている心臓を悟られないようにしながら、僕は恨めしい視線をそのものに送る。と、そいつはオパチョだった。


「オパチョ。どうしたんだい?」

 オパチョは、僕と向こうのほうでしゃがんで膝に顔を埋めている●●を交互に見た。


「もうすぐヒコウキでる」

 ・・・そうだった。忘れてた。

 オパチョにお礼を言いながら頭をなでて●●に声をかける。



「●●、おいで」

 ●●はぶつぶつと何かを呟いてから、ふらりと立ち上がった。



 ああもう。私は何てまた恥ずかしいものを晒して・・・。

 相手が子供だったからまだよかったけどさ。


 私の数歩前を歩くハオと、オパチョと呼ばれた子。

 私がため息をつくとその子はふと私のほうを振り返った。


 なんだ?

 その子は私の顔をじっと見つめて、指をさしてきた。



「ハオさま、オパチョこいつきらい」


 ・・・。

 ・・・何で嫌われた?ちょっとショック。初対面なのに、子供に指差されて嫌い宣言されたよ。


 涙目になってハオのほうを見ると、ハオは笑いをこらえていた。


 ハオにこんなに殺意を覚えたのははじめてだった。

 でもそれ以上に『嫌い』がショックで、肩を落とす。



 それにしても、さっきから目の前にでかい悪趣味な飛行機が見えるんだけど、これは私は乗っていいのかな。


 搭乗口で私は立ち止まる。

 ハオたちはさっさと中に入ってしまった。


「・・・」

 どうしよう。


 頭を悩ませてると後ろから誰かにどつかれた。

 ふりかえると、それはさっきハオの後ろにいつの間にか現れた人だった。青い髪の綺麗な女の人。


「こんなところで立ち止まってるんじゃないよ」

 ギンと睨まれて、背筋がぴんと伸びた。


 もう考えてる暇もなくて私は駆け足で飛行機に乗った。






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