一ヶ月。

 一ヶ月が経った。

 ごめん、嘘。

 二週間。

 ハオが急にいなくなって2週間経った。


 祭りだったあの日に出て行ったのか、次の日の早朝にいなくなったのか全然わからない。



 私は珍しく九時くらいに目が覚めて、前の日にシャワーすら浴びていなかったことに気づいた。

 もうすでに起きているであろうハオに対して気まずい思いを抱えつつも、浴室に行って体の汗を流した。

 さっぱりしたあとに足音を忍ばせながらまた部屋に戻ろうとしたとき、違和感を感じた。


 テレビの音がしない。

 こっそり近づいて顔を覗かせると、仏壇の間には誰もいなかった。

 まだ起きていないのかと首をかしげるとともに、自分の中で嫌な予感と言うものが渦巻き始めていた。


 そんなはずはない、きっとまだ寝てるんだ。


 自分の胸にそう言い聞かせて、勇気を出して部屋の扉をノックした。



 夏休みもとうの昔に終わって、二学期最初のテストも終わった。

 来月は体育祭がある。下旬に文化祭もある。

 めまぐるしく過ぎる日々のおかげでハオのことを考えずにすんでいる。


 それでも家に帰ってはっと気づいたときには、ご飯を多めに作ってしまっていたり、お風呂の湯を高めに設定してしまっていたり。


 泣きたくなる。負けて何回も泣いた。

 こんなことなら、こんなに後悔するなら、想いを告げればよかった。


 ああ、でもたぶんそれでも泣いてただろな。


「あ・・・」

 ほら、また野菜切りすぎた。

 もういやだ。

 何度繰り返しても飽きない自分の行動に嫌気が差して、まだ途中だったけど晩ご飯を作るのを放棄した。


 かといってテレビを見る気にはならない。



 私の足が向かった先は。

「・・・」

 ハオが使っていた部屋。


 まだまだ懲りる様子のない自分についには呆れて、私は住民のいない部屋に入った。

 殺風景な部屋。

 ハオもきっとそう思っていただろうな。


 でも荷物がないから、そんなに家具とか増やしても邪魔になるだけだし。


 ぐるりと部屋を見回して、本当にいなくなってしまったのかと再確認させられた。


 思い出にしよう。

 そろそろ部屋から出ようとして、視線を動かしたとき。

 部屋の隅に何かが転がっているのが見えた。


「?」

 あんなのもともと家にあったっけ?

 近寄ってみる。

 ごっついソレ。

 ハオが前に壊れてしまったと言っていた、変な機械だった。
 今までもこの部屋に何度か来たけど、混乱して見つけられなかったのだろう。

 ぽかんとして、無意識にそれを拾い上げる。



 なに?これって必要な物なんじゃないの?忘れていったの?バカじゃん。


「バカじゃん」

 なのにまた涙が出てきて、素直にハオとの繋がりが残っていたことが嬉しかった。


 その機械を握り締めた。


 すると。



 ピピピピピピピピピピピ

「うわぁ!」

 急に鳴り出した機械。

 驚いて取り落としそうになったけど何とか持ちこたえた。

 ピピピピピピピピピピピ

「どどどどどうしよう!」

 さっきまで何も言わなかったのに!


 混乱してボタンみたいなところを連打するけど止まらない。
 この音は妙に人を不安にさせる。徐々に気持ちがせわしなくなってくる。


「ハオごめん!」

 その無常な機械音に我慢がならなくなって、それを振り上げた。

 目をぎゅっと瞑っていずれくる破壊音を待った。


 が、手から機械が離れる前に、急な浮遊感を感じた。



「!」

 とっさに目を開けると、目の前には大きな刃物と変な髪形の男の子の仰天とした顔。

「っ」

 言葉にならない声が漏れて、頭を守るように腕で覆った。


 でも心配したような痛みはなくて、かわりにお尻と腰にすごい衝撃が来た。

 こんな痛みは今までにないってくらい痛かった。

「いっだ・・・!」

 下がコンクリートじゃなくて地面だったのがまだマシだった。

 でもその痛さは半端じゃなくて、腰を押さえて声を殺しながら悶える。


 もう、なんなの?驚きすぎて窓から落ちちゃったかな?

 いやでも家四階だし、そこから落ちたら死ぬよね。

 ずっと同じ体勢で刺激を与えないようにしてるうちに、少しずつ痛みが治まってきた。


 そこでようやく顔を上げる。


「・・・」

 視線。

 視線。

 視線。

 目の前にはポッカリと口をあけてる同い年くらいの男の子たちが数人。

 バンダナをしてる子や、ヘッドフォンをしてる子、そしてさっきの刃物の子と・・・あと1人は男の『子』じゃないな。リーゼントの人。


「?」

 何が起きてる?この人たち誰?

 キョロキョロと周りを見渡してもまったくもって見たことのない場所である。


「お、お前・・誰だ?」

 ヘッドフォンをつけた子がわなわなと震えながらたずねてくる。

「誰って言われても・・・」

 こっちも何がなんだか。



 首をかしげていると、後ろから耳に馴染んだ声がした。


「――●●・・・?」

「え?」


 ドキリと跳ねた心臓。

 恐る恐る振り返ると、そこには。


「・・・」

 大きな大きな赤い化け物がいた。


 ときめいたはずの心臓が一気に縮み上がって、全身から血の気が引いていく。


 ひゅっと息を吸って、声と共に吐き出した。


「ぎゃああああああああああ!!」






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