最近私はおかしい。 ハオがうちにきて、早くも二週間が過ぎた。どっちかというと密度の高い二週間だったけど。 第一印象こそは最悪で、ノーパンで、常識なんてなさそうで、そしてちょっと怖くて。 でもこの濃い二週間を、ほぼずっと隣にハオを置いて過ごして気づいたことがたくさんあった。 ハオはよく笑うけどそれが何となく表面だけなような気がしたり、猫によく懐かれたり、頼んだことは文句を言いつつもこなしてくれたり、何よりすごく優しかったり。あ、あと世話もよく焼いてくれるな。 よって、私のハオに対する印象は瞬く間に総入れ替えされた。 それまでならよかった。 これからもハオが元の場所に帰るまで、温和な生活を続けていければそれでいいと思ってた。 でも最近私はおかしい。 お風呂や寝る前の布団の中でよく、ハオが帰ってしまうときのことを考えたりする。 外に出ていて、帰ってきたときに、無感情ながらも『おかえり』を言ってくれる声とか、まずいまずい言いながらも最後まで残さずご飯を食べてくれることとか、会話はしなくてもその場所にいてくれるだけで安心する気持ちとか、それがすべて失われると思うと胸が苦しくなって涙が出てくる。 そして、明日の朝起きたときにハオがいなかったらどうすればいいんだろうと、まじめに考えて絶望する。 それはただハオに対して情が移ってしまったのか、わからない。わかりたくない。 これは気づかないほうがいいんだ。 ハオがかっこよく見えるのももともと顔が綺麗だからだし、優しくされると舞い上がるくらい嬉しくなるのもただの『テンション』。 名前を呼ばれてドキッとするのも、いちいち見せる表情に目を奪われるのも、無意識にハオを目で追っているのも、目が合うと舌がもつれそうになるのも、全部、居候として気になるから。 そう思っていれば大丈夫。 ほら、落ち着いてきた。 この気持ちはこれ以上大きくしちゃいけない。 自分が傷つかないために。 ハオに気づかれちゃいけない。 迷惑をかけないために。 でも、思い出だけはたくさんほしいって思うよ。 忘れたくないから。 僕は●●に惹かれてる。 ついさっき、ようやく気がついた。 いや、前から気づいていたのかもしれない。 はじめ、●●はただの、溢れている人間の中の一人で、僕は●●に嫌悪感しか感じてなかった。 ただもとの世界に帰るまでの床。それだけの目線でしか●●を見ていなかった。 想像していたとおり、●●の心も周りと同じで。 けれど、彼女はそれを隠さず素直に見せてきた。 最も汚れ、忌むべき存在の人間である●●と共に生活をし、少しずつ汚れているのは自分自身ではないかと思うようにもなってきた。 それはない。 考えがよぎるたびに僕はそう思って、打ち消してきた。 でも、●●のことを少しずつ知っていって、拒絶するどころか僕の気持ちは彼女を受け入れようとしてきている。 別に彼女のどこが良いとか褒める気はない。 ただ僕は惹かれた。●●自身に。 この僕を『優しい』と言って、微笑んでくる●●に。 それは本当の僕を知らないからだ。そんなことは重々承知している。 ●●はきっと僕を知れば自然と離れていく。 それは、嫌だ。 いつの日か僕は元の世界に戻るその日に、少しだけ怯えるようになった。 シャーマンキングになって人間を滅ぼす。この野望に今も変わりはない。 ●●と一緒にいたい。だけど、シャーマンキングにならねばならない。 この大きく矛盾する気持ちが重くなって腹の底にたまってゆく。 僕は●●に惹かれている。 けど、僕は元の世界に帰るまで・・・いや、帰ってもこの気持ちをずっとずっと底に沈めることになるだろう。気づかないフリをして、また明日もバカして笑えばいい。 それが僕にとっての最善策。 彼女にとっての最良の案。 けど、思い出だけはたくさんほしい。 忘れないために。 「ハオ」 「・・・何?」 自分から話しかけたのに●●はその後の言葉を言うのに躊躇った。少しして、ようやくハオの表情を伺いながら言った。 「あのさ、今度お祭あるんだけど・・・行かない?」 「祭?」 「ああ!別に嫌だったらいいんだけど!・・・ハオ人が多いの苦手だって言ってたしね」 苦笑しながら、自分で却下の方向に持っていこうとする●●に、ハオは待ったをかけた。 「行くよ。僕も祭は好きだ」 その答えに●●はきょとんとし、少しだけ眉根を寄せた。 「嘘ついてない?」 その怒ったような顔に、ハオは少しだけふきだす。 「ついてないよ」 どうしてそんな嘘をつく必要があるんだ、と諭すように言う。 「人多いよ?結構大きな神社だし」 「どうにかなるさ」 「本当に?」 「本当」 ハオがそう言い切ると、●●は嬉しそうに目を細めた。 ハオもつられるように口角をあげる。 「しあさってだからね!」 「はいはい」 約束の日を心待ちに、彼らは眠りについた。 |