※話の都合上、即席オリジナルキャラクターが登場します。使い捨てです←
苦手な方はご注意ください。 






 準備は万端、気分は最悪。
 いざ海へ。


 と言っても、集合場所は駅である。
 朝の九時に、うちから歩いて二十分ほどのところにある駅に集合。

 そして今は八時四十分。まだ自宅。そろそろ出発しないと間に合わなくなる。

 なのに、いつもはテキパキと動くハオがどうにもだらだらとして、まだ髪も結わえていない状態だ。

 その他のことはもう準備できてるのに!

「ハオ、そろそろ急がないと」

「わかってるよ」

 少しだけ急かすと、ハオは髪をさっと結わえた。
 何だ。できるんじゃん。
 でもこれだけだらだらしてるってことは、やっぱり嫌なのか・・・。

「じゃあ、行こう」

「ああ」

 荷物はさり気なくハオが持ってくれてる。
 やっぱり優しいなぁ。

 丸一日家を空けるのだから戸締りもしっかりして、今度こそいざ駅へ。



 駅に向かいだして約十分。

「●●」

 とくに大した会話もなかったが、その延長上で抑揚のない声でハオが言う。

「ん?」

 鞄を持ち直してハオの長いまつげを見た。

「あの友人はともかく、他のやつらは僕がくるってこと知ってるの?」

「あぁー・・・。たぶん。結構気が利く子だし」

 そういえばその辺全然考えてなかった。
 でも大丈夫だよね。

「変なことしないでね?」

「失礼だな。僕がいつ変な事をしたんだよ」

 第一印象が最悪だったから。ノーパンとか。

「とにかく、恥ずかしいことしないでね」

「じゃあ僕からもそれをお願いしておくよ」

 口減らず。


(どっちが)

 つんとした表情の中、ハオがそんなことを思ってるなんてしらなかった。




 そうこうしているうちに、駅が見えてきた。

 脇に立っている見覚えのある集団が私たちに気づいて、その中の一人が大きく手を振ってきた。

 あーあー、恥ずかしい。

 苦笑しながら手を振り返す。

「わかりやすい子だね」

「素直でいい子だよ」




 ユラを含めて、案の定四人の視線はハオに釘付けである。

 その視線の中心にいるハオはと言うと、目の前の人間には興味なさそうに、周りをきょろきょろと見回している。

「あ、と。いとこのハオ」

 本人があの調子だから私が勝手に紹介すしたけど、ハオは無反応。
 ひじでつつくと、「何?」とストレートに聞いてくる。

 察しが良いのか悪いのかはっきりしてほしい。

「まぁ初対面だし、ゆっくり仲良くなろう」

 その間を何とか取り持ってくれた、それなりに仲の良い男子タクヤ。冷静で周りの関係を繋ぐ、架け橋的な人。

「そうだよ。●●ちゃんのいとこだって聞いて、少しこっちも緊張しちゃってるし」

 ほわほわとした喋り方が特徴。コアちゃん。

「緊張するなって!」

 明るいけど空気が読めないサトシ。

「してないよ」

 あー・・・。なんかハオとあわなそうだなぁ。心配だ。


「まぁまぁ!じゃ、早速向かうとしましょう!」

 そしてユラ。
 この一言で全員を適当にまとめあげ、なかなか強引に全員を電車に乗せた。


「●●、隣きてー」

「あ、うん」

 コアとユラが真ん中に隙間を作って、その席をポンポンとたたく。

 席に座り、ハオを目で探すと、ほんの少し離れたところで男は男で何とかやってるみたい。これでとりあえずは・・・。

「俺タクヤ。でこっちがサトシ」

「うん」

「お前男の癖に髪なげーなぁー」

「触るな」

 もうどうしよう。
 目も当てられなくて、顔をそらした。

 そこで両脇からユラとコアがずいと顔をつけてきた。

「で、付き合ってんの?」

「は?」

 何を急に。

「だって一緒に住んでるんでしょ?」

 何その、同居=交際 って図。
 右隣のコアがにやにやしながら囁いてくる。

 ていうか。

「おまえ、裏切ったな」

 ハオ連れてきたら誰にも言わないって約束したのに。
 ユラはへらへら笑ってまったく悪びれた様子もない。

「ハオ君かっこいいね〜。前校門の前で座ってたのは驚いたけど」

「あの時は●●逃げたからね。笑った笑った」

「お願いだからその話を蒸し返さないで」


 頭が痛くなる。

「それにしてもほんと美人だねー。周りの男子がカスに見える」

「ユラちゃん、あんまり言っちゃかわいそうだよ」

「はは、はははは」

 キャッキャと騒ぐ二人。他人事のように、女の子だなぁと実感する。

 私も二人と同じようにハオを見ると、髪を引っ張られていたハオと目がかちあった。

(たすけろ)

 と口ぱくで言ってきてるけど、気づかないフリをした。




 海につくころ。ハオはすでにぐったりとして、整えた髪もぐしゃぐしゃになっていた。


「大丈夫?」

「そう見えるなら」

 いつもの笑顔。
 これは随分ご立腹・・・。

 他の四人は、眼前に広がる、光を受けて青々としている大きな水溜りに目を輝かせていた。

 我先にと更衣室に飛び込んでいったクラスメイトに苦笑する。

「●●はいいの?」

「んー・・・。うん。その前に陰に荷物置きに行こう」

 水着って恥ずかしいじゃん。できるなら着たくない。
 半ば時間稼ぎだけど、それでもどうにか伸ばし伸ばしにしたい。

 二人で砂浜を辿り、ちょうどいい陰を探す。そして見つけたのは、植木によってできている小さな木陰だった。

 時間がたったらなくなっちゃうかもしれないけど、今だけでも凌げるならね。

 ハオは気だるそうに白い砂の上に座り込んで、置いたバッグに抱きつくようにのしかかった。

「疲れた」

「ははは・・・」

 ハオはバッグにもたれかかったまま髪のゴムを解いた。

「暑くない?」

「んー」

 控えめに隣に座る。
 砂は陰にあるはずなのに十分に熱を持っていた。

 ハオは顔をしかめてふさぎこんでる。

 気分悪いのかな・・・。

「ハオ、大丈夫?」

「大丈夫だよ。・・・ちょっと人が多いのが苦手でね」

 気を使わせないためなのか、砂に手をついて自力で姿勢を保つ。
 たしかにこの季節にこの綺麗な海だから、人も結構集まっている。

 それが申し訳なくて、また謝ろうと口を開いたとき。


「●●ー!」

 遠くからユラの声。
 ハオと二人同時に振り返った。

 この距離でも人の多さをものともしない、ダイナミックな手の振り。

 華やかな水着を纏った同級生たちはすでに海を満喫している。

「●●も行ってきたら?」

「あ・・・うん・・・」

 立ち上がって服についた砂を叩く。

「お金は好きに使っていいから。無理はしないでね」



 ●●はやっぱり罪悪感を感じてるのか、僕が何か反応するたびに心配そうな表情を向けてくる。

 でもせっかく遊びに来たのに●●が楽しめなかったら意味がないじゃないか。背中を押すと●●は素直に着替えにいった。それが約十分前のこと。

 僕は特にすることもないので、何を目で追うわけでもなく寄っては返す波を眺める。

 僕が見つめるその先に、意図せず●●の『友人』らが目に入ってきた。

 そいつらは人間らしく騒いでいたが、あるときに皆して視線を同じ方向に向けた。

 つられてその方向を見ると、そこには着替えの完了した●●。水着の上から薄いTシャツを着ている。

「・・・・・・」

 なんだよ。
 なんか。
 こっちまで恥ずかしい!

 いつも●●はシャツにズボンと、ほとんどいつも変わらないスタイルだし、まえに制服姿を数度見たけどそれも露出はそれほど少なくなかった。

 普段はスカートなんてまったくはかないのに、いきなり肌の露出度八十パーセントの姿を見せられたら・・・。


 顔が熱くなって、それでも●●から目を離せなかった。

 じっと見つめて、あまりに見つめるのも変態みたいだなと無理矢理視線を引き剥がそうとしたちょうどそのとき、ふと●●がこっちを見た。

 ●●は照れたように苦笑をして、小さく手を振ってきた。

「っ」

 自分でも驚くほど心臓が高鳴って、今まさに真っ赤であろう顔を片手で覆う。

 手を振り返す余裕なんてなくてそのまま僕は立てた膝に顔を埋めた。

 これじゃあ本当に変態じゃないか・・・。

 最近おかしい。自分でもわかってる。たぶんこの間、夜散歩に行ったときからだ。

 またそっと顔を上げてみると、もう●●はこっちを見ていなかった。

 ちょっと残念。


 いやいや!残念じゃない。残念じゃないよ。


 膝を抱いて、その膝の上にあごを乗せる。

 そして目線の先にはやっぱり●●。
 それはもう楽しそうに笑ってる。

 男にボールを当てられてもそれでも楽しそうにしてる。

「ふん」

 これなら僕が来る必要はなかったじゃないか。
 ・・・まぁ、家にいても暇だけどさ。

 また●●を目で追っていると、あのうるさい男がいないことに気がついた。

 彼らの周囲を見回すが、やはりその姿はない。

「?」

 首をかしげると、彼らから離れたところから走ってその集団のほうに向かってくる姿を見つけた。

 彼の存在に気づいた●●たちは動きを止めて彼の到着を待ち、ようやく到着した彼から何やら話を聞いている。

 その話を聞いたあのうるさい男と女は一目散にある方向に走っていった。続いて、比較的害のない男女が行く。

 着いていこうとした●●は少し駆け足になったが、すぐに足を止め僕のほうに方向転換をした。


 彼女にとっては全速力なのだろうが、遅い。

 砂に足をとられながら走ってくる。
 僕はそんな彼女を立ち上がって迎えた。


「どうしたの?」

「むこ・・ぐへっ・・ゲホゲホッ・・・!どう・・・おえっ」

「・・・」

 これじゃあ会話にならない。

 とりあえず落ち着くまで待つ。


 他のやつらはどこにいったのかと、向かっていった方向を見ると、先走っていった二人はダウンしてすでに四人でのろのろ歩いていた。


「あのね」

 ●●が話し出したので、視線を●●に戻す。

「サトシが変な洞窟見つけたって言うから、行ってみないかって」


 そういうことか。

「そう。わざわざ報告してもらって悪・・・」

 またその場に座ろうとしたら、手を掴まれてそれを防がれた。


 ●●を見ると、『来ないの?』と言いたげな目と合った。

 しばらくの間無言の見つめ合いがあって、僕は折れた。

「・・・わかったよ」

 この返事を聞いて●●は嬉しそうにへらりと笑った。





「じゃあ入りますよ!」

 あのうるさい女がなぜか仕切っている。

 それにしてもこの洞窟。
 遠くから見たらわからなかったけど、霊道が通ってるね。

 空気も悪いし水気もあるし、さらには事故の多い海。
 うってつけの巣屈じゃないか。

 僕は憑りつかれるほどやわじゃないけど、この一般人はどうなんだか。


 僕の思いなど気づきもしない人間たちは無駄に元気に洞窟の中へと侵入していった。

「ハオ?」

 踏み出さない僕を不審に思ったのか●●が下から覗き込んでくる。

「ううん。なんでもないよ」

 ●●はこんなところに興味があるんだか。

 半分はノリだろうな。もう半分は流れ。

 前を行く四人はテンションも高めに、早歩きでずんずん進んでいく。



 僕らも置いていかれないように進むけど意外に足場が悪い。

 靴を履いてる僕はそうでもないけど、●●は裸足だからよたよたと頼りなさげだ。


「大丈夫?」

「うん」

 とは言っても、この暗がりの中足元ばかり見てても危険だ。

 それに前の者たちに置いていかれないようにと、自然と早足になって余計に危なっかしい。


「●●、あんまり急がないで」

「でも・・・」

「急がなくてもあいつらは待ってて・・・」

 前を見ると広がる暗闇。

「くれてないね・・・」

 ぽつんと吐かれた台詞。

 なんなんだあいつらは。●●に来いと言ったくせに、来たら来たで放置か。

 それならもうこんなところにいる必要はない。ここにいる霊も性質の悪いやつばかりだ。


「●●、戻ろう」

 少しいらいらしながら●●の方を振り返る。

「・・・●●?」

 がそこに●●の姿はなかった。

 首を傾げたとき、足元から気配がして、下を見るとそこにはうずくまっている●●がいた。


「●●?どうしたんだい?」

 しゃがんで目線を合わす。
 よく見ると●●の背中が微かに震えていた。

 その背中に手を置く。シャツ越しに、その体温がかなり低いことに気づいた。

 水に体温を奪われたのか・・・それとも。

「・・・き、気持ち悪い」

 少しだけあげた●●の顔はひどく青かった。
 ここの気に当てられたか。

 どうやら●●は霊に敏感な体質らしい。


 見えもしないし憑かれもしない。ただ体調によってそれが表れる。

 ●●の両親のときも彼女は睡眠の妨害を受けていたようだし。

 とにかく早くここを離れたほうがいい。


「●●、立てる?」

「・・・うん」

 ●●は自分の体をぎゅっと抱いて、何かを抑えるような表情をしてからゆっくりと立ち上がった。


「・・・」

「・・・」

 立ったは良いけど、まさに棒立ちの●●。

 フラリフラリと頭を揺らした後に、●●の体は逆らわずに後ろに倒れていった。


「!?」

 驚いて、とっさに手を伸ばし右手を掴んだ。でもそれじゃ支えきれず、右手も伸ばして●●の腰にまわした。


 どうにか支えられたことにほっと息をつく。


「●●、●●」

 体を抱きかかえたまま少しだけ揺らすと、閉じられていた目がうっすらと開いた。

「ハオ・・・」

 か細い声と青白い顔。
 もうこれは自力で歩いてくれそうにない。

 僕はもぞもぞと●●の体を動かしてどうにか背に乗せた。

「ハオ・・・重いよ」

「うんうん重い重い」

 僕が適当にあしらうと、それっきり●●は何も話さなかった。

 ●●のぬれた髪が頬に当たって、ふいと肩に乗ってる●●の顔を見た。


「・・・」

 すでに目を瞑っているが、眉は苦しげに寄っている。
 そしてそれ以上に。

(顔が近い!!)


 心臓がばくばく鳴ってる。

 この距離だと呼吸の音すらも耳に入ってくる。

 と、とにかく早く出よう。


 そう思ったが、なかなかここは暗い。


「・・・」

 ●●も眠ってるし大丈夫かな。

 僕は足元を照らす小さな炎を数個つくり、出口に向かった。



「ごめんね、●●ちゃん」

 コアちゃんが両手を合わせて申し訳なさそうに眉を下げる。

「ううん、いいのいいの。こっちこそごめんね」

 洞窟の中で急に気分が悪くなって私は倒れてしまったらしい。
 それを背負って外まで運び出してくれたのがハオみたいで・・・。

 みんな楽しんでるのに、私が乱しちゃった。皆にもハオにも迷惑かけて・・・。

 私を運んでくれたハオはと言うと、離れたところで不機嫌そうに海を見てる。


「怒っちゃったかな?」

 ユラがハオを見て呟く。

 うーん。怒ってないこともないと思うけど。

「でもいつもあんなかんじだから。気にしないで」

「ていうかあいつ、本当にいとこか?」

 タクヤが何気なくはいた疑問。

「な、何で?」

 一気に心拍数が上がる。

「いや、別になんでってこともないけど。似てないし。顔も性格も」

 あーやばい。これはやばい。
 なんて返すべきか悩んでいると、私が答えるよりも先にユラが答えた。

「タクヤばか?いとこなんて結構血遠いよ。似てなくて当然」

「そうか?」

「そうそう」


 ・・・、どうにか切り抜けられたみたい。よかった。



「じゃあそろそろ帰ろうか」

 傾きだした日を見て、ユラは名残惜しそうに言った。




 その夜、疲れきった私とハオはお風呂に入ってすぐ居間で爆睡し、そのまま朝を迎えた。






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