こっちにきて早くも1週間が過ぎた。
 朝起きて僕が着替えていたとき、トビラがノックされる。

「ハオー」

 1週間経って気づいたけど、●●は結構な早起き。
 急いでシャツを着て、いいよ、と声をかける。
 ひょこっと顔を出してきた●●。

 その手には、最近見なかったオラクルベルが握られていた。

「それは・・・」

「この変なのハオのでしょ?」

 変なのって・・あれでも一応伝統工芸品らしいんだけどな。

「うん。ありがとう」

 差し出されたオラクルベルを受け取ろうとしたら、僕のその手は空を握った。

 直前で上に持ち上げられたみたいだ。
 返すのか返したくないのか。

 僕がジトーッとした目をしていたら、●●はオラクルベルと僕を交互に見て控えめに口を開いた。

「これ、なにか聞いていいの?」

「それはもう聞いてるようなもんだろ?」

「じゃあ聞く」

 オラクルベルを握ったまま●●は僕の部屋に入ってきた。

 部屋の中心まで来たら何も言わずにオラクルベルをつき返してきて、部屋の真ん中に遠慮なく座り込んだ。

 心なしか表情が期待に満ちてる気がする。

 僕も倣って正面に座った。

「・・この間、シャーマンやシャーマンファイトについて教えただろう?」

「あー、うん」

 大丈夫かな。

「これはそのシャーマンファイトへの参加資格を持つ者に与えられる・・・パスポートみたいなものだよ」

「パスポートかぁ。参加資格ってことは、みんながシャーマンファイトに出場できるわけじゃないんだ」

「シャーマンファイトを取り締まってる者から、戦って勝ち取るんだよ」


 十祭司のことまで説明するのが面倒だから、そう言っておく。
 思ったとおり●●はそれで納得してくれた。

 楽だな。


 ●●はまた僕からオラクルベルをもぎ取って、ボタンや画面をべたべた触りだした。
 ●●がボタンをいくら押しても、オラクルベルは何の反応も示さない。

「動かない」

「最近壊れちゃったんだよ」

 白い画面を見つめて、また数度ボタンを押した後●●はふと顔を上げた。
 僕の顔をじーっと見つめてくる。

「・・・なに?」

「ハオもこれ、戦って勝ち取ったんだよね」

「まぁ」

「ハオって強いの?」

 ・・・これは・・困ったな。

「それは・・・」

 それなりに巫力はあるとは思うけど。

「普通かな」

「普通なの?」

「普通だよ」

「ふーん」

 一番無難だよね。『普通』。

「これ直せないの?」

「できたらとっくにしてるよ」

「だよね。ハオ機械とか全然わからないそう」

 失礼だな。当たってるよ。説明書を付属しないパッチ族が悪い。説明書さえあれば僕は万能だよ。

「そういう●●はどうなんだい?」

「テレビとかなら」

「一応言うけど、チャンネル変えるとか電源入れるとかは『わかる』のうちに入らないからね」

「・・・」

 そのくらい僕もできるよバカ。



「いいなぁ。私もその戦い見てみたいな」

 話無理矢理変えたな。

「一般人が見ても理解できないよ」

 オラクルベルをさり気なく取り返す。
 でも●●は僕の言葉のほうに気をとられたようで、特に抵抗もしなかった。

「理解?そんな難しいことなの?」

 いや、難しいんじゃない。その逆だ。
 戦って、死ぬ者は死ぬ。生き残る者は生き残る。単純明解。

 しかしだからこそ凝り固まった考えを持つ人間には、その単純さを理解できない。否、理解しようともしてないのかな。

 ――でも僕らの戦いを、人間を基準に考えるなら『難しい』と言えるのかな。
 彼らにとって理解しがたいものは『難しい』。

「ああ。すごくね」

 この答えに、●●は何とも不思議そうな顔をした。
 そして、少しだけ眉根を寄せて、●●は微苦笑した。




 ●●が退室して、部屋に残されたオラクルベル。
 おもむろに手にとって、さっき●●がしていたようにいろいろなところを弄り回す。

「やっぱりだめか」

 どのボタンを押してもうんともすんとも言わない。

 ●●に言ったとおり、最近までオラクルベルは確かに狂い無く作動していた。
 最近、というのは、僕がこの世界に紛れ込んできてしまう直前。

 スピリット・オブ・ファイアに乗って星を見ながら散歩してたら、突然鳴り出した。

 何かの知らせかと思ってオラクルベルを見たけど、画面は真っ白。
 故障したのかと思ったら、いつの間にかこっちにいた。

 そう、本当にいつの間にか。まさにあっという間。
 そしてもう一度、鳴った。それは一週間前、こっちの世界に来てから。

 とにかく誰か人間を捕まえて話を聞こうと、地上に降りて周りを見て手ごろな人間がいないか探してた。

 でも場所が悪かったのか、そこは人がほとんどいない場所。
 他のところに移ろうとしたその時だった。オラクルベルが鳴ったのは。

 慌ててまた画面を見たけど、やっぱり画面は反応していなかった。

 少し肩を落として、ふと前を見ると、数メートル先に気だるげに歩く女の姿を見つけた。

 それが●●だったわけだけど・・。

 今これまでの成り行きを思い返してみれば、引っかかるところがいくつかある。
 根拠のない考えだけど、こんな状況になったのもオラクルベルが関係しているように思える。

 勘だけどね。

 でも根拠が無いからこそ、この勘も、足蹴にはできないかな。






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