どうすればいいかなんてわからない。

 謝ればいいのか?

 ていうか俺が悪いのか?

 確かにスニベルスにいつも呪いをかけたりしてるけど、別に●●にかけたわけじゃないのに。

 ましてや●●はスニベルスのこと嫌いだったはずだろ?なのにどうしてお前が泣いたみたいな声出すんだよ。

 今までスニベルスにちょっかいをかけたことを咎めた人なんて、ほとんどいなかったのに。強いて言うならエバンズだけれど、あれは持ち前の気の強さと、スニベルスと幼馴染という己の立場があったからだろ。

 ●●は気が強いか?スニベルスと幼馴染か?

 違うじゃねえか。


「シリウス、汚い」

「あ、ああ」

 気がつけばボーっとして、口に含んだはずのかぼちゃジュースが口の端からだらだらと零れてしまっていた。

 今日何回目だろう・・・。


 もうかぼちゃジュースを飲むのはやめようと、自分から離れた所にグラスを置いた。

 最後の一粒のビーンがすくえなくてヤキモキとしているピーター越しに、レイブンクローの机を見た。


 そこにある姿になぜかほっとしてしまう。

 いつもどおり一人、集団とは離れた席に座っている・・・はずなのに、今日は違った。
 妙に女に囲まれて座っている。

 そしてなぜかローブを汚していた。


 隣の席のやつが眉を下げ、●●が苦笑をしながら両手を小さく振っているのを見ると、どうやら隣の席の奴が●●のローブに何かをこぼしてしまったようだ。

 なんか仲良くやってんなー。

 避けられてないという実感から安心したのか、俺は他人事のようにそう思った。


「どれどれ、シリウスは何を見ているのかな?」

 横から俺の視界を遮るように頭を突っ込んできたジェームズ。

 俺が見ていたものを見つけるや否や、すぐにまた自分の持ち場に姿勢を正した。

「シリウスはあれを見てどう思った?」

 ちょいとジェームズが指を差す先には、ローブに清めの魔法をかけている●●。

「どうって・・・」

 そりゃ、仲良くやってるなって。
 そう答えると、ジェームズは何を否定するでも肯定するでもなく、「ふーん」と唇を尖らせていた。


「なんだよ。何かあんのか?」

「別に。ただ人の感性は様々だなってね」

「は?」

 また曖昧なこと言いやがって。


 それ以上尋ねるのも面倒だった上、だらだら朝食をとっていたせいで残り五分で最初の授業が始まってしまうということに気づき俺らは慌てて席を立つ羽目になったので、結局ジェームズの真意をそのとき聞くことはなかった。




「シリウス。ちょっといい?」

 午前最後の授業が終わり、さっさと教室を出て行く生徒達の背中を見送りながらのったりと片づけをしていれば、早いうちに片づけを終えていたリーマスが寄ってきた。

 エバンズに引っ付いていこうとするジェームズについていこうとしていたピーターも足を止め、俺たちのほうを振り返った。

 リーマスは教室から俺たち以外の人の気配が消えるのをじっと待ち、気を遣ったピーターが、最後の生徒が出て行ってから自分も外に出て教室の扉を閉めたところでようやく口を開いた。


「あのさ、●●のことだけど」

「●●?」

 彼の口からその名が出たとき、不自然に心臓が跳ねた。おかげでどうでもいいところで聞き返してしまった。

 リーマスはそんなこと気にも留めなかったみたいでそのまま続ける。


「前に、彼女は浮いた存在だって言ったよね」

 頷く。

「今まではただ、浮いているだけだったんだけど、最近あからさまな嫌がらせを受けてるみたいなんだ」

「嫌がらせ?」

 今日の朝もそんなふうには見えなかったけれど・・・。


 本当にそうか?自分に問いかけてみて、あのときの様子をしっかりと頭に思い浮かべた。


「・・・本人には言うなって言われてたけど、シリウスはちゃんと知らないといけないから」

「なんで俺が」

 なぜ浮いているはずの●●が、急に大勢に囲まれて食事をするようになるのだろうか。


「ここ数週間でそういうのが顕著に出始めたらしい」

 じっと俺の目を睨んでくる鳶色。
 何が言いたいのか、悟った。

「前に言ったよね。人前で話しかけるのはタブーだって。その理由わかってるでしょ?それなのに君は何度も何度も・・・」

 ローブの汚れは、あの困った苦笑いの中の冷めた物は、ジェームズのあの問いかけの意味は。


 ぷつり、と思考が途絶えた。


「・・・俺のせいかよ」

 そう呟けば、リーマスは意味の取れないため息と共に首を軽く横に振った。

「間接的にね。実際は君のファンのせいだ」

「・・・」

 なぜ俺が責められなきゃいけない。言い返したくても、なんでかできない。


「そして昨日のことだけど」

 言葉とともにフラッシュバックする●●の滲む声。
 朝までわからなかったことが分かった気がする。


「●●は、誰かが嫌がらせを受けてるのを目の前で見て、我慢ができなかったんだと思う」

 別に最初から●●はスニベルスのことを嫌ってたわけじゃなかったんだ。ただ俺が人に嫌がらせをしているという事実に対して不快感を感じていただけなんだ。


「どんなに怖がっても、ちゃんと正しいと思うことを行動に起こせる●●は、勇気がある」


 きっと、反感を買うことをわかって起こした行動だったんだろう。


 しかしそれがわかったところで俺はどうすればいいっていうんだ。

 謝れって言いたいのか?彼女に対する嫌がらせの渦を止めろと言いたいのか?
 いろいろな案が浮かぶけれど、確かな答えの出ないもどかしさ。


「じゃあ、俺はどうすればいいんだよ」

 このままにしたくない。
 優しい光を取り戻した鳶色の瞳が緩やかに細まる。


「何かを得るために大切なのは、言葉だけじゃないよ」




 絶対に●●には僕が話したってこと言わないでね!と念を押してくるリーマスに頷き、俺たちはようやく教室を出た。

「――そういえばさっきの話、本人から聞いたんだろ?いつ話したんだよ」

 リーマスはほとんど俺たちと一緒にいるし。リーマスが単独行動するときといえば・・・。


「見回りのときにちょっとね。夜なら誰もいないし、結構よく話したりするんだ」

 そういえば監督生だったな。なんかちょっとイラッとする。


 ふーんとそっけない返事をすれば、リーマスはくすりと笑った。






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