はるさんにもらった嶺レン
まだ駆け出しで下積み修行中の神宮寺レンが事務所に顔を出してスケジュール確認を終わらせたのがついさっき。
事務所は広く人気のあまりない廊下を歩いていると、エレベータホールの前から男の声が二つ聞こえてきた。
耳を澄ましているわけでもないのにやけに明るい声は静かな廊下に反響し、断りを入れられてもなお行動を共にしようとする様子が、耳を伝わり脳内に伝わる。
このまま行けば間違いなく鉢合わせてしまうだろうと思った神宮寺レンは踵を返して反対側の階段を目指し始めると間延びした声に引きとめられてしまった。
さっきまで夕飯を食べようと同期である一之瀬と一十木を誘っていた寿嶺二に。

「えっと〜、派手なキミは確かランランの後輩の・・・」
「初めまして、神宮寺レンです。寿先輩」
「あっ!そうそう、レン君!ねー、もしかして今から帰るところだった?」

人好きのする笑みを浮かべてやけに間延びして媚びる様な話し方が学園の月宮を思い出させるようだった。
接したことは殆どないのに何故か寿嶺二に苦手意識を持っていた神宮寺レンは気まずさからすぐに開放されたくて差しさわりのないよう短く「用事が終わったので」と答えたが肩を組まれ、いつの間にか詰められていた距離に少し驚いた。

「寿先輩・・・?」
「ねぇ、暇だったら付き合ってよ。庶民の夕飯おすそ分けしちゃう!」

同期に一度断られてしまった寿嶺二は今度は取り逃がすまいと肩を組んだままエレベータホールに向かって歩き出し、偶然にも居合わせたエレベータ(いつもは常駐などありえない)に乗り込んで事務所を出たのだった。

お互いに殆ど初見で、一十木からは会えばたまに話を聞きかじってはいたが所詮相手は男、神宮寺レンの頭の中には二人の先輩で歳の割りに騒がしい人だと言うことと、月宮のようなカメラの前で明るいキャラクター性はきっと二面性があるだろうと勝手に思い込んでいた。
しかし、関わることは絶対にないだろうと思っていたのにこうして二人の代わりに付き合わされることになり、酷く神宮寺レンは困惑していた。

(どうしよ・・・何であの時レディと約束がある、とか言えなかったんだろう。いや、一応先輩でもあるから立てなくちゃだよな・・・)
「ねぇレンレン、鶏肉は好きー?」
「えっ?はぁ・・・まあ、好きだけど」
「何か歯切れ悪いぞ〜?あ、もしかして本当は苦手?ランランはうちのすごく好きなんだけど、残念だな〜・・・」
「あ、苦手じゃなくて好きだって言ったんだけどな。すごく楽しみだよ、夕飯」

しょぼくれた寿嶺二に慌ててフォローするような言葉を並べて伝えると、ころっと表情を変えて満面の笑みを浮かべて来るのを見ると、やはり苦手な人種だ、そう思ったのだった。


***


「狭くてごめんね!はい、これがランランが好きなうちのお弁当だよ」
「から揚げ弁当?」
「そう!見ての通りそんなに大きくはないけど、評判なんだよ」

そう言って初めて見せる柔らかな笑顔が寿嶺二の本当の姿なんじゃないだろうかと思い、素直に弁当のパックを受け取った。
それは温かく、向かいに座った寿が箸を指に挟んで両手を合わせるのを真似してポーズを取ってみると嬉しそうに笑いかけられ、どう言う顔をしていいか迷って居ると頭を撫でられていた。

「え?」
「レンちゃんさ〜、ずっと警戒してたでしょ。もーバレバレ!」

クスクスと笑いながら髪の毛を乱すように撫でられ、思ったより豪快だなと振り払えずされるがままになっていると手が離れて行く。

「あまり関わらないかもしれないけどさ、同じ事務所何だし俺のこと嫌わないで欲しいな〜」

苦手意識はあったがまさか嫌っているように見えてしまったのだろうかと何も言えずに寿の言葉を聴いていると微笑まれる。
それは今まで見たことのない笑い方で、さっきの柔らかい笑顔とは対照的過ぎて、どっちが本物かを手探りしていると真っ直ぐに見つめられた視線の奥には体温が感じられず、一瞬身体が竦んだ。

「手懐かせたくなっちゃうでしょ?」

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