Short story | ナノ



01


俺たちの中で紅一点だったアイツが死んで二月、唯一とも言える親友が死んで一月が経った。

正確に言えばアイツを殺して、その罪の重さに耐え兼ねた親友が自殺して一ヶ月経った。


「お前も、馬鹿だよな。」


墓石に語りかける。

親友は今時珍しいくらいに真っ白、正に純粋無垢を絵に描いたような男だった。


「本当に馬鹿だよ。お前も、世間も。」


雫が墓石を叩いた。降り出した雨に黒い傘を広げる。

アイツは愛に殺された。それが世間の解釈だった。無理も無い。親友はアイツを心底愛したが故に殺してしまったのだから。確かにそれは間違いないのだが、一つだけ、肝心な部分が間違っている。


「本当は、逆なのに。」


真実を伝えることに於いて世間の解釈を借りるなら、親友がアイツの愛に殺されたのだ。

アイツは全部分かっていた。分かった上で親友に殺して欲しいと懇願したのだ。その罪の重さに耐え切れずに自ら命を絶つことももちろん想定済み。人に好かれがちな親友をそうまでして繋ぎ留めようとしたアイツ。正直、気持ちも分からなくはないがよくやったものだと思う。


「ごめんな。」


謝ったところで現状は動かないが。

たくさんの人が歎き、悲しみ、怒り、苦しんだ。歪みに歪んだものであっても、それは確かに愛と呼べるものだったのだからある意味幸せと呼べるのかもしれない。だからこそ、遺された人間は余計に悩まずにはいられないし、この一件を記憶から抹消するには時間をかけるしかない。ともなれば、二人は記憶の中で、そしてこの土の下で、当分は二人一緒に居られるのだからアイツの願いは叶ったと考えていいだろう。


「でも」


雨が激しさを増していく。

それにしても、結局誰も分からなかったのだろうか。この歪んだ愛は一体何処から始まってしまったのか。


「これでずっと一緒だよな。」


雨が笑みも呟きも消していく。

何と可笑しな顛末なのか。壊れ狂ったただの戯曲は人知れず幕を開き、落とすのだ。


不可侵領域にて溺死

(親友の死はアイツの願い)

(なら、二人の死は?)




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