01
昔々、ある国に我が儘な王様が居ました。彼が望めば手に入らないものはありませんでした。気に入らない人間が居れば、王様はすぐに首を刎ねてしまいました。人々は王様の目に入らないように、家の外に出ないようになりました。しかし、王様はありもしない罪で人々を呼び出して首を刎ね続けました。
そんな王様の前に一人の商人が現れました。
「王様、貴方に相応しい首を持って参りました。」
商人は布で覆われた一枚の板を差し出しました。
「ただの板ではないか。」
「いいえ、王様。これは魔法の板でございます。」
「魔法の板?」
「はい、王様。この板は、貴方が最も望む首を写す板です。貴方が心から望む時、その首を写してくれる板なのです。ですが…」
商人は板をそっと撫でました。
「最も望む首を手に入れるには、とても高い代償が必要になります。そして一度しか使えないのです。」
「より強く望む時に使えと言うことか。」
「おっしゃる通りでございます。どうか、その時を御間違いになられないように。」
商人は恭しく頭を下げると去って行きました。
その後も王様は人々の首を刎ね続けました。
「首を持って来い。」
そんなある日のことでした。王様が首を運ぶように命令しても、いつまでも首は運ばれて来ませんでした。
この国にはすでに、刎ねる首も首を運ぶ人も居なかったのです。
「そうだ、あの板があった。」
王様は魔法の板のことを思い出しました。
「魔法の板よ、私が望む首を教えてくれ。」
宝物庫に眠っていた魔法の板を手に、王様はその布を外しました。
「…何と美しい。」
王様は板の中の首にそっと手を伸ばしました。その首は正しく、王様が心から望んだ首でした。
「この首が欲しい。」
王様は板の中の首を取るために、首を刎ねる剣を手に取りました。
首を愛した男
(王様は気付きませんでした。)
(魔法の板が)
(ただの鏡だったことに)
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