Queen | ナノ

01


 あれから三日の時が過ぎようとしていた。

 あの後リリアは駆け付けたレイシーに連れられて自室に戻り、残された死体は全て秘密裏に処理された。全てがギルベルトの指示だった。


「……姫様。」


 三日目の夜、誰もが寝静まったことを確かめ、莢はリリアの下を訪れた。


「……。」


 案の定、返事はない。


「姫様……、せめて一口でも何か召し上がってください。」


 そっと扉に触れる。

 あの事件以来、リリアは部屋に閉じ篭り、運ばれた食事にも一切手をつけていなかった。


「……まだ出て来ないのか。」

「……ギルベルト様。」


 背後からの声に振り返れば、ギルベルトが立っていた。


「私が……」

「やめてください。」

「?」

「……。」

「……何のつもりだ。」

「……っ。」


 いくらか低くなったギルベルトの声に、莢の肩が揺れる。それでも莢は扉の前に立ち塞がった。


「此処まで来れば、あとは貴方一人で進められるはず……。」

「……。」

「姫様は……、あの方はもう……っ。」

「此処で下りるなら……」

「!」


 一歩、距離が詰まる。


「私は、剣を抜く。」

「……っ。」


 たった一歩。されど莢を黙らせるには十分な距離だった。


「そういう契約だ。」

「でも……っ。」

「この計画の引き金を引いたのはリリアだ。終わらせる責任がある。」

「……。」


 ギルベルトの言葉に、言い返す余地はない。

 誰かが終わらせなくてはならない。それは莢も分かっていた。ただ何故それがリリアでなくてはならなかったのか、それだけが計画が終盤を迎えた今でも分からなかった。


「あの女は、賢すぎた。」


 莢の考えを見通したのか、ギルベルトは静かに呟いた。

 眉一つ動かさない彼の表情からは、その言葉の真意を伺うことは出来ない。


「ギルベルト様……」

「姫様、失礼します。」


 問われるより早く、ギルベルトは莢を摺り抜け、リリアの部屋の扉を開けた。


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