Queen | ナノ

01


 アズとイーズが戻って来てからのリリアの行動は素早く、そしてあからさまだった。すぐに北に渡りをつけ、二人が来て数日で帰る日取りを決めてしまった。

 その間、二人とは一度も顔を合わせていない。


「今回のことで文を認めた。使者殿、どうかこの文をコーラン殿に届けて欲しい。」

「承知致しました。」

「イーズ。」


 国書を使者に渡したリリアは、妹の名前を呼んだ。


「ミアル様とコーラン様の言葉に耳を澄ませ、北で多くを学べ。御二人ならば良き手本となり、必ずお前の力となってくれるだろう。」

「……はい、姉様。」


 再会後、初めての会話だった。


「達者で……っ。」

「姉様……?」

「……大丈夫だ。」


 不意に目眩に襲われた。

 リリアは小さく息を吐き、不安そうに自分を見上げるイーズの頭を撫でて誤魔化した。


「ギルベルト、外まで……」

「リリア。」

「……。」

「お願い。最後に……」

「申し上げたはずです。」


 伸ばされた手を払う。


「先代が崩御召された今、貴女にその権限はない。」

「……っ。」

「お飾りでいられるだけでも、感謝して頂きたいものだ。」

「私は……、貴女の母親です!貴女は……」

「このサウゼレスで親兄弟の絆を説くのですか?」


 くだらない。リリアは一言吐き捨て、鼻で笑い飛ばした。

 此処サウゼレスでは、代々王位の継承権を巡る争いが当たり前のように起きていた。親兄弟の争いは、最早一種の伝統だと言っても過言ではない。それこそ歴史を紐解けば、母親が我が子を手にかけた例も出て来るだろう。


「現に私も……、父を殺した。」


 父より自分が強かった。それだけのことだ。弱肉強食のこの国では、何一つ珍しいことではない。


「今やこの国では私が絶対。貴女であろうと口出しは許さない。」


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