Queen | ナノ

01


矢が的を貫く。

弓を不得手とする自分でもこれほど矢が走るなら、弓兵に持たせれば戦場では大いに役に立つだろう。


「陛下。」

「……。」

「陛下?」

「……。」

「あの〜、陛下?」

「……。」

「ちょっと、聞いてます?」

「……。」


リリアは掛けられる声にも気付かず、次の矢を番えた。


「姫様。」

「!」


ギルベルトの声に漸く振り返った。


「……どうした?」

「呼んでいたんですけどー……」

「私を?」

「"陛下"なんて呼ばれる方が他に誰か居ます?」


ずっと声を掛けていたリコニは不満げに声を上げる。

弓を気に入られたのは喜ばしいことだが、無視をされればやはり面白くないようだ。


「……そうか。私も皇帝だったな。」


リコニの想いを知らずか、リリアは笑った。


「すまない。呼ばれなれていないんだ。」

「"姫様"と呼んだ方がいいなら、そうしましょうか?」

「あぁ、そうしてくれ。気付かずお前に死なれても困る。」

「……怖いことを言わないでくださいよー。」

「冗談だ、半分は。」

「……。」


意地悪く笑えば、じとりと睨まれる。


「戦場に来たいという学者も珍しい。」

「……。」


返事がない。どうやら臍を曲げたらしい。

何でも成果を自分の目で見たいらしく、戦場への同行を願い出て来たのだ。リコニほどの技術者を失うのは惜しいが、来たいと言うなら連れて行ってもいい。


「私に話があったんだろう?」

「はい!」

「……。」


まさに一瞬。瞬きする間に、リコニの機嫌がマイナスからプラスに転じた。


「足りないものでもあったのか?」

「いえいえ、十分ですよ〜。ただ……」

「リコニさん!」


猫撫で声で言葉を紡ぐリコニを、傍らに控えていたルピスが遮った。


「……。」

「……。」

『……。』


ルピスの笑顔が眩しい。

心なしか、その一帯の気温が下がったような気がした。


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