01
午前中は調べ物で時間を費やしたため、リリアは執務に移るべく自室に向かっていた。
「姫様。」
「?」
呼び止められ、足を止める。
振り返ると一人の男が立っていた。見覚えがあるような気もするが、思い出せない。
「どうした?」
「先日の一件について、御話が……。」
「……話せ。」
「それが……。」
話を促すと男は口ごもり、辺りを見回した。
「……此処で話せる内容では無さそうだな。」
「はい。」
「何処なら話せる?」
「こちらに。」
男に促され、リリアは後に続く。
黙したまま少し歩いた後、男が開いた扉を潜った。
「……。」
扉を潜った瞬間、甘ったるい匂いが鼻を突いた。
「姫様?」
「……何でもない。」
訝しむ男に軽く手を振り、中に進む。
「それで?」
「……姫様、先に一つだけ聞かせて頂きたいことがあります。」
「聞きたいこと?」
意図の掴めない男の発言に、リリアは益々眉を寄せた。
「先の内乱……、民衆を率いていたのは姫様であったという噂は真でしょうか?」
「……事実だ。」
「……。」
男は押し黙った。
その噂なら正式に公表されていないにしろ、噂となって人々に知れ渡っている。それが今回の件とどう関係しているのか見当もつかない。
「ならば、何故……」
男が口を開いた。
「何故父は……っ、殺されなければならなかったのですか!?」
「!」
リリアは漸く思い出した。
この男の顔は、玉座の間で殺した男によく似ている。
「父の仇!」
男が腰に据えた剣を引き抜いた。
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