Queen | ナノ

01


 リリアは傍らにギルベルトを控えさせ、足早に廊下を歩いていた。その表情には焦りが浮かび、足は先へ先へと急いでいる。

 明らかに、動揺していた。


「ルイヴィ、リリー、入るぞ。」


 努めて冷静を装い、ドアを開ける。


「……。」


 広がった光景に、リリアは顔を顰た。

 カーテンが風で翻り、時折差し込む月の光を砕け散ったガラスが散らしている。


「二人共、怪我は……!」


 ルイヴィへと伸ばした手は、乾いた音と共に払われた。


「……。」


 じわりと、熱が滲む。


「リリア……」

「大丈夫だ。」


 朱雀の声に払われた手を軽く振り、リリアは一つ息を吐き出した。


「莢。」

「はい。」

「二人を頼む。」

「分かりました。」


 莢は一つ頷くと、震える二人の傍らに膝をついた。


「ルイヴィ様、リリー様。」


 出来るだけ柔らかい声音で二人に声を掛ける。

 二人のことは、莢に任せておけば間違いはないだろう。


「朱雀、お前も二人についてくれ。」

「……分かった。」

「ギルベルト、警護を。」


 素早く指示を飛ばす。


「……此処は危険だ。二人共、治療が終わり次第部屋を移れ。」

「……。」

「莢、部屋はお前に任せる。ギルベルトと相談して決めてくれ。」

「はい。」

「……。」


 指示を出し終え、リリアは一度だけ二人を見遣ると部屋を後にした。


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