Queen | ナノ

01


 兄妹を受け取って早くも一月が経過した。リリアは仕事の合間を縫って看病に当たっていた。


「今日くらい調子が良ければ、コレで外に行ける。」

「ありがとうございます。」


 リリアは手元の車椅子に手を置いた。

 東国の技術を応用して作ったそれは多少力が必要ではあるものの座りながら移動が出来る。足の自由が利かないリリーのために前以って作らせておいたのだ。


「庭に出てみるか?」

「いいんですか?」

「もちろん。北の花は咲いていないが、見応えはある。」

「楽しみです。」

「莢に紅茶を運ばせよう。」


 他愛ない会話をしながら車椅子を押す。

 リリアとリリーは割と良好な関係を築いていた。リリーの素直な性格が大きいだろう。


「この時期でもたくさんの花が咲いているんですね。」

「北に比べて暖かいからだろう。」

「私には少し暑いくらいです。」

「今年は特に暑い。とは言え夜は冷える。身体を冷やすなよ?」

「はい。あ、この花は何ですか?」


 リリーは笑みと共に手を伸ばした。


「姫様!」

『!』


 穏やかな時間を切羽詰まった声が切り裂いた。


「大丈夫だ。」


 リリアは一度リリーの肩を撫でると息を切らせる兵士に歩み寄った。


「何があった?」

「それが……、北の王子に逃げられました。」

「……そうか。」


 息を呑むリリーを見遣り、口角を上げる。


「ギルベルトに評議員を召集させろ。私もすぐに行く。」

「はっ。」


 兵士は一礼を残し、去って行った。


「……リリアさん。」

「心配しなくていい。すぐに朱雀を呼ぶ。紅茶も莢に運ばせよう。」


 リリアはリリーの頭を撫でると歩き出した。


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