けむりのまちで2
「でもごめんね。こんな年末の忙しい時期に」
「ほんと、いい迷惑」
「えっ」
「仕事、手につかなくなる」
おもわず顔をのぞき込もうとしたら、怒ったように目を逸らされてしまった。
吐く息が白い。君の頬が赤いのは、この冷たい風のせい?
2人は地上に出て大通りを歩いていた。景色はどこか白く煙っていて、幻想的だった。
「これ、霧なの?」
「いや…湯気」
「湯気!?」
「そう、温泉が湧いてるからね。日本も火山多いから温泉はお馴染みでしょ」
「ま、たしかにそうだけど。そっか…寒いと湯気も真っ白なんだね」
「そうだね」
それからしばらく足音だけが2人の間に響いた。
幾つか角を曲がり、裏通りに面した民家に招き入れられ、客間に通されやっと私は口を開いた。
「ごめんね」
彼は当惑した顔で私を見た。
「何が?」
「…春のこと。私、なにもわかってなくて」
「へ? ああ、僕が電話しても出なかった時期あったよね」
ローテーブルを挟んでソファに腰掛け向かい合う。
「あの時私相当滅入ってて、全然頭回んなくて。イースも大変だったのに」
「って、もしかしたら噴火のこと言ってんの」
軽い調子で問われて戸惑いながら頷く。
「噴火自体はしょっちゅうだよ、活火山だらけだし。たまたま季節風の影響で大事になっちゃっただけで、うち自体に大した被害はなかったから」
「なんだ…だったら、よかった。けど、なんか、あの時自分のことしか考えてなかったなって思ったらすごく申し訳なくて」
鳴る電話、放っておいてほしくてそのままにしていた。
やがて鳴らなくなった電話に勝手に不安になって、自分のせいだって責めて、でもこっちから何かしようとしなかった。
「今日だって、迷惑も考えずに突然きたりして、ほんっと自己中だよね。ごめん…っ」
私は膝を見つめながら、改めて自分の身勝手さに気づいて、自分はなんて嫌な女なんだろうと思った。
「これだけは言っとくけど!」
突然の大きな声に驚いた。
「自分がつらいときに他人のことまで考えられるような完璧な人間いないよ」
そう言って彼は立ち上がると、着たままだった上着を脱ぎつつ扉へ向かった。
「何か温かいものいれるからストーブつけて待ってて」
その背中が扉の向こうに消えてしまう前に
私は思わず抱きついた。
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