北の国へ1
せっかくこの時期にこっちに来たんだから、フィンランドにも寄りたいところなんだけどなあ、と私は自分のスーツケースを待ちながらぼんやりかんがえた。空港の荷物受取口。看板には見たこともない文字が並んでいた。ああ外国だ……。
先ほど飛行機の中で時間を合わせたばかりの時計を覗きこむ。うん、乗り継ぎの時間は十分あるな。
ベルトコンベアの上に見覚えのあるスーツケースをみつけ、よいしょと引き下ろした。異常なし。旅の滑り出しは順調。よし搭乗手続きに行こう、と思ったところで。
「綾さーん、綾さんっ」
ゲート出口の人混みから自分を呼ぶ声がした気がして、まさかと思いつつ周囲を見回す。旅先に知り合いなんて、いるわけが……、
「こっち! こっちですよ!」
「あっ、ってあれ!?」
予想外の人物が現れて二度見する。
「こ、ここ…コペンハーゲンだよね。なんでフィンがいるの…」
「いや、僕だけじゃないですよ」
苦笑いしたフィンの横からもうひとりが顔を出した。
「どっこ見とんのさー、俺もいんべ!」
「うわ、デン君ごめん、見えなかった!」
「そりゃいくら綾でもひでぇべ」
「だからごめんって。……でもなんでフィンまでいるの? デン君がいるのは当たり前だけど」
私が訊くと、フィンは優しく笑った。
「だってせっかくこっちまで綾さんが来てくれるっていうから……」
「”四人”で迎ぇよってことになったんべ」
フィンの言葉を継いだのは、いつの間にか現れたノル君だった。
「うわっびっくりした。……ん? 四人?」
私は再びあたりを見回して背後の気配に気づき飛びのいた。
「すすすすスーさん!?」
「荷物、持っちゃるべ」
背後の彼は私よりも頭ふたつ高い。びっくりしながらもありがとうと荷物を預けた。
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