さらわれる


「月曜の放課後は空いてるかい?」


きらきらした眼でそう訊かれたのはつい3日前のこと。

「別に、用は無いけど」

私がそう答えると彼は一層瞳を輝かせた。

「やった! 珍しくツイてるんだぞ!! 絶対空けておいてくれよっ」

予想外に跳ね上がったテンションについていけず、なんでと問い返そうとした時には、彼は半ばスキップで帰っていくところだった。4時には迎えに行くから、と一言残して。



そして、今がその"月曜日 4時"だった。いや、正確には3時55分。

気になって何度か時計を見る。何を企んでるんだろう、あいつ……。


ところが。


4時を5分過ぎても彼は現れない。いつもなら5分や10分大したことないが、つい気になって玄関の外に出た、ところで、



「TRICK OR TREAT!!!」

物陰から飛び出した大きな影に抱きつかれてよろめく。


「うわ、えっ、びっくりした!」
「ははは、待ってたんだぞっ!」
「それこっちの台詞なんだけど」
「細かいことは気にしないっ。じゃ、行こうか」

私の背中に回していた手で今度は軽々と私を持ち上げる。

「!?」

突然体が宙に浮いたのに驚くと、自転車の荷台部分に降ろされた。

「ほら座って」
「え、ごめん、どこ行くの」

まだ状況が掴めない私は目を白黒させながら訊いた。

「俺んちだよ! もうパンプキン・ライトに灯をいれた頃さ」

彼は自転車のスタンドを慎重にあげるとサドルに跨った。


パンプキン……カボチャ……って、あぁ!

私はようやくハロウィンパーティーに招待されたのだということに気付いた。

「なんだ分かってなかったのかい」

漕ぎ始めながら彼が言う。

「うん……ごめん」
「ホント君は面白いなあ!」

笑いつつ彼は振り向き付け足した。

「ちゃんとつかまって」

明らかに指し示されているのは彼の体である。

「えっ」

私が戸惑っていると、彼は私の右手を掴み、自分の腰に回させた。

「そんなこと、」

できないよ、と続けようとして、加速する自転車に振り落とされそうになる。

観念して両手を前へと回した。

「よし、じゃあもっとスピードアップするから絶対落とされないでくれよ!」

なにそれ、と私は笑った。落とさないように走ってよ。

でもそれが彼らしいところだ。



「……アル」
「なんだい?」

小さく呼べば返事が聞こえた。それよりもっと小さな声で呟く。




好きだよ




一言は風にさらわれて消える。

「なんだい!? よく聞こえなかったんだけど!」

彼が騒ぐ。私は笑ってなんでもない、と言った。



メリー・ハロウィン!

私の心も、君にさらわれていく。


END










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