これは飽くこともなく続く私の情けない想いの話。
もうその本のページを繰ろうとは思ってなかった。
その先にはもう未来は描かれていないのだから。
なのになぜか捨てられないこの本。
人はこれを未練と呼ぶ
「ジェームズとリリーが結婚したって」
噂は自然と耳に入ってきた。さすがは学年一の問題児。卒業した後でも尚、噂は驚くほど早く広まった。
その頃私はロンドン郊外で物語を書いて暮らしていた。学生時代の叶わなかった恋を忘れようと思ったから。いっそ空想の中に住まおうと思ったから。
だけど、懐かしく忌まわしい名前を耳にして、一気に色々なことが蘇ってきた。
夏の晴れた日、17才、ホグワーツを去る日、私は卒業というイベントにつきものの謎の高揚感に包まれると同時にえもいわれぬ焦燥感に襲われていた。
今度こそ、今度こそ、私とあの人を繋ぐキーワードは無くなってしまうのだ。私にとってホグワーツは、唯一の糸だった。それが切れてしまえば、会う理由も機会もなくなってしまう。
何かを、伝えなければ。 なんとなくそう思っていた。
突如偶然にも視界に入ってきた姿を見て、だから私は思わず声をかけていた。
「卒業、おめでとう」
振り返る彼はいつも通り不機嫌そうで、どうも幸せそうには見えなかった。それでもこちらを向いてくれた、それだけで私の今日は最高の日になる。
「……あぁ。卒業おめでとう」
形式通りの言葉を交わして結局、気まずい空気が流れた。
「あ、あの」 「……」 「えーと、」 「なんなんだ」 「ごっ、ごめん。その、元気でね!」
そう言って手を振るのが精一杯で、なんとか笑顔を添えた。彼には私より会いたい人が居ることが分かってるのに、何を私はぐずぐずと引き留めているのだろう。
You too. ――君も。
それだけ言うと彼は視界から消えた。
それが言葉を交わした一番最後の思い出だった。
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