終業の合図もろくに聞かないまま私は足早に教室を後にした。
自分の気持ちを理解する時間が必要だった。なんだか心の中がめちゃくちゃだった。とりあえず走った。気まぐれな階段をいくつか上り下りしたので、もうどこにいるのかわからなくなっていた。でも今はそんなことどうでもいい。廊下のつきあたりで腰を下ろすと、涙を拭いながら息を整えた。
……気づかないはずがなかった。彼が幼馴染の彼女を、とても深く愛していることを。5年間同じ寮で過ごしているのだから。ずっと、後ろから、見てきたのだから。 それよりも私が気づくべきだったのは、自分がなぜただの同級生をそんなに熱心に「見て」いるのかというごく自然な問いに対する答えだったんじゃないか?
私は苦しさのあまり天を仰いだ。
答えは明白だった。The answer is love.
だけど自覚したって彼がリリーから目を逸らすなんて、天地がひっくり返ってもあり得ない気がした。それを悔しいなんて感じなかった。だってあの純粋な気持ちを妨害しようなんて、私には到底思いつくことじゃなかったから。
わたしはこのままでいい。
このままが、いい。
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