もうすぐ夏がやってこようという季節だったが、地下にあるこの談話室にはまだひやりとした空気が残っていた。窓はないが、もうすっかり日も暮れて、外出禁止の時間になる頃だろう。

 人影もまばらの談話室で、私はというと夢中になって本を読んでいた。ずっと読みたくて、ふくろう試験が終わってすぐ買ってきた本だった。女子寮に帰ってベッドの上で読めばいいことは分かっていたけれど、一瞬でも本を閉じるのがもどかしくてずるずると読み続けていたところだった。

 ふと入り口のほうからやってきた人の気配を感じて顔を上げた私は、その人物の形相に驚いて本を閉じるなり立ちあがった。歩き去ろうとするその腕を無理やりつかんで引き留めた。

「なんて顔してんの、セブルス。何があっ…」
「うるさい」

 長い髪を振り乱してこちらを向くと、私の言葉を遮るように睨みつけてきた。

「お前には関係ない」

 私ははっとした。そうだ……私に問い詰める権利なんてある? 傷ついた彼を余計傷つけるのが関の山。

「いいから離してくれ」
「あ、ごめんなさい」

 無意識につかんでいた腕を離した。考えてみれば、服越しとはいえ触れたのは初めてだったかもしれない。しかしなぜだか、今は引き留めなければいけないような気がしたのだ。自由になった彼はくるりと背を向け、床に落ちていたクッションを一蹴りして行ってしまった。

 あんなに感情を露わにしているのを見たのは初めてだった。


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