「なんで、お前は、いつも……」
「後ろについてくるのか、って?」

振り向いた黒髪の彼は、それを引き継いだ私の言葉に苦い顔をした。

「自覚はあるようだな」
「自覚っていうか、特に意味はないんだけど。向かう所が一緒なんだし仕方ないでしょう」

 悪びれもせず言う私を一瞥し、呆れたようにまた歩き出した彼は先ほどよりも心なしか早足になっている。特に意味はない。私も半ば駆けるように、彼を追った。

 私たちの関係なんて、こんな行動よりもっと意味がない。友達といえるほどの慣れあいもない。幼馴染というやつでもない。ましてや血が繋がっているわけでもない。――もっとも、彼は出生を明らかにしたがらないので、もし純血ならどこかで血が繋がっていてもおかしくはないのだけれど。

 つまり、私たちをつないでいるのは、ただ、同じ寮に住まう同級生であるというそれだけの事実。

「……それだけ、なんだよなぁ」
「何か言ったか」

怪訝そうな顔がこちらを向いている。寮の入り口となる絵画の前で立ち止まった、前をゆくその人に独り言を聞かれたらしい。私はいいえなんでも、と力なく笑った。

「わけの分からん奴だな」

彼もわざとらしくひとりごちてから、さっさと談話室を抜けて男子寮へと消えていった。その後ろ姿を私はただ茫然と見届け、しばらく立ち尽くしていた。考えてみれば本当に、私たちの間には何もない。そのことに今、なぜか、どうしようもない戸惑いを感じていた。


‐1‐

prev next






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -