「まさか見抜かれているとはな」
彼は小さく息をついた。
「だがまぁ、我を忘れて攻撃した相手が赤の他人ではなくてよかった、といったところだ。死喰い人の類を吹き飛ばしたのでは、今頃どんな苦しい言い訳を迫られていたことか」
ややあって私は息を呑んだ。
「赤の他人じゃない、って言ってくれるんだ……」
「……? 他人ではないだろう。同じ寮で学んだ学友程度には思っていたが」
今度こそ私は喉を詰まらせ、体を折った。膝に顔を埋めて、声を押し殺した。
ずっと友人にすらなれないと思ってきた。ただの同級生止まりだと思ってきた。
それなのに。たったひとつの言葉で私の過去の苦しみを綺麗に流し去ってしまうのだ、この人は。
「これは泣くところか?」
ちょっと狼狽えたような声が降ってきて、私はなんとか頭を上げて涙を拭いた。
「ね、迷惑ついでに、ひとつ約束してもらっても良い……?」
「内容にもよるが」
私はそれを肯定と受け取って言葉を続けた。
「私が死んだら、一度でいいから墓に花を手向けてほしいんだ。一回だけでいい。ただ、地上で私のことを覚えてくれている人がいるなら、それ以上に嬉しいことはないから」
それがあなたなら尚更。
「……それでは私に何の利益も無いではないか」
「えーと、それは…たしかに?」
「では代わりに、」
彼は人差し指を立てた。
「私が先立ったときには、君から花束を」
そして今、
私は腕から溢れるほどの白い花束を抱えて立っている。
それはあなたが命を懸けて愛した人の名を持ち
黒を好んだあなたに驚くほどよく似合う純白の花――。
end
‐9‐
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