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シルエット








放課のざわめき。

廊下の堅い床には、長く淡い黒が伸びている。

私は曲がり角にさしかかる手前で足を止め、曲がった先にいるだろう人物の影に目を落とした。


話し声が聞こえる。


おう、じゃあまたなと言った声は、私の思ったとおりの人のものだった。私は一歩足を出し、滲む闇を踏んだ。



「なんだよびっくりしたな」

突然現れた私に、影の主は歩き出したばかりの足を止めた。差し込む夕陽で顔がよく見えない。私は目を細め、その人を見上げた。

「私いまシリウスの頭の上にいるよ」

「…はぁ?」

魔法でも使ったと思ったのだろうか、怪訝そうな顔をしておきながら、頭に手をやる彼に思わず笑った。

「違うよ、ほら」

私は足元を指差した。

ちょうど影の頭にあたる部分を、私は革靴のつまさきでつついてみせる。

「なんだそりゃ」

彼は呆れたように笑う。

「影踏みだよ」

小さい頃やらなかった、と聞こうとした私の言葉は最後まで続かなかった。突然抱き締められたからだ。


「影はひとつで十分だ」


私の頭の上で声が笑う。

「それこそなんだそりゃ」

やっぱり私のほうが頭ひとつ下だという事実に内心渋い顔をしながらも、頭上の笑い声がくすぐったくて結局私も頬を緩めた。



混ざり合う橙と黒、堅い石に温かく伸びていく。