優しさを束にして
幸せは一瞬の幻みたいだってことを私はもう知っているから、手にした途端不安になってしまう。
いつか過ぎ去ってしまう幸福の瞬間を、留めていたくて必死になる。
失いたくなくて、苦しくなる。
だけどそれは無理だというのも知っているから。
「先輩、ちょっといいですか」
ふたりは並んで歩いていた。片方が歩みを止めれば、もう片方も自然立ち止まる。
「なあに?」
私はどきりとして相手の顔を見た。なんだか怒っているようにみえたから。
「僕のわがままかも知れないんですが」
私は黙って頷いて、続きを待った。
「……僕の前では我慢とかしないでください」
え、と思わず言った。一瞬息が出来なくなった。
「なんで」
「今、なにか我慢してませんでしたか」
「だからなんで、わかったの」
「なんとなくです」
私はふわふわとした居心地の悪さを感じて後ずさった。察してくれたのがうれしくて、しあわせで、だけどそれが苦しくて。
彼は一歩で距離をつめた。
「なんでも言って下さいね」
「うん」
「僕たちには今しかないんですから」
「ごめんね」
「で、何だったんですか」
「いや、あの……」
私は約束したそばから言いづらくて目を逸らす。
「てっ、手を」
「え」
「手を繋ぎたいななんて思ったりして、その」
消え入る声でやっとのこと言う。
「なんだそんなことですか」
彼はほっと息をつくと、自然に手を絡めてきた。
「ほら、行きましょう」
私はびっくりしてから、やっぱりほっと息を吐いた。
なんだかくすぐったい。
私はいつもその優しさに甘えてしまう。
だからそのしあわせが消えてしまう前に、いつか今度は私から
優しさを束にして