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Time to get know









「レギュラスって笑わないよね」

「そんなことはありません、愛想笑いくらいならできます」


そう言って彼はまさに形式通りといった笑顔を浮かべた。


「そうじゃなくて、本当に心から幸せだと思うときに出る笑顔」

「そんなもの、今まで必要ありませんでしたから」

さらりと言った彼の表情に、私は二の句が継げなかった。

彼の基準はいつだって、必要か、不要かの二択だ。

それに、と彼は続ける。


「ごくふつうの家庭の子供が経験したような幼少時代が、僕にはありませんでしたし。親戚達のご機嫌を保つための手段として、笑い方は覚えました。そういう家ですから」


合理主義で、無駄なものは認めない。必要なのは、権威ある統治者と、誠意ある臣民である。そういう血筋であることを、私だって知らないわけではなかった。





そうか、きみもブラック家の人間だったんだね。



今まで一度だってそれを意識したことはなかった。私にとって彼は、真面目で、優雅で、それでいて時たま張り詰めた空気を纏っているつかみどころの無い後輩であって、それ以上の背景なんて意味をもたない。

必要なのはきみ自身だ。


「じゃあ、これから知っていけばいいね」

私は意図して微笑みかけた。

「心から幸せが溢れるような瞬間の笑顔を」

「……そう、ですね」


そう言うと、彼は体から力を抜いてすうっと目を細めた。


それを笑顔というんだよ、と私は言わなかった。


それを知るための時間は、これからいくらだってあるから。












(end)