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Bring on yourself



※現代パロディ
※ギャグ風味











「あーあーなにやってんだよ馬鹿だな」



頭上背後からシリウスの非難の声が降ってきた。



「なっ…馬鹿はないでしょ! 無意識だったんだよう」





私が何をしていたかというと、なんせこんな夏の終わりの夕暮れで、そりゃあまあ必死だったのであろう蚊だかなんだかに、2度に渡る猛襲を受けた私の左足が無意識のうちの救援要請を発していて、私はそれを迎え撃つために果敢にも、えーと、えーと……

……つまり蚊に刺されたとこをひっかいてたのです。無意識に。あああ




「いや……これは誰がどう見ても馬鹿だろ。真っ赤になっちゃってるじゃねぇか、治りが悪くなるぜ」


「うわぁあもうやだー! なんで二カ所も刺してくんだよ馬鹿なのは蚊のほうだーっ」


ちょっと後悔もしつつ、投げやりに暴言を吐く。

「蚊も生きる為に必死なんだ。許してやれよ」

「許せるか! ちくしょうかゆいー!!!」

「おいおい女が畜生とか言うな。ほら塗ってやるから足出せ」



出せとか言っておきながらもう足首を押さえていたシリウスが持っていたのはかゆみ止めの薬で。



「…!! やだ!!」

私は全力で拘束を解除しにかかった。

「なんでだよ」

「だって! 今つけたらそれめっちゃしみるじゃん!!」

「しょうがないだろ、それくらい我慢しろよ」

という言葉の直後、左足にひんやりいやな予感。


「あ゛っ! ちょっとまだ良いって言ってな……うわぁあああ!!! いたいいたいいたいやめろぉおお」



メンソールの匂いがぱっと部屋中に広がった。



「馬鹿暴れんなこれくらいで!」

「これくらいって何よ! シリウスにはこの痛みが分からないんだ! しかも馬鹿馬鹿言い過ぎ!」

「自業自得だろ! つーかこれ以上馬鹿にされたくなかったら黙れ」



それはそれはもう本当に泣けてくるほど痛かったのだけど、たしかに自業自得だからこれ以上喚けばこいつの思うつぼで。


仕方ないから歯を食いしばった。少し経てば痛みも和らぐし。


でもなんだか悔しくて、乱れた呼吸を整えつつ、未だ私の左足首を掴んでいる加害者Sを睨みつけてやった。









「……お前、それ以上こっち見んな」




なぜか目があった途端、顔を背けられてしまった。一瞬だけどえらく戸惑った表情をしていた気がして、私は思わずどうして、と訊いた。




「いや……なんていうか、そんな風に潤んだ目で見られるとですね、その、いくら俺でも……」





顔は背けたまま目線だけをこちらに向けて言う。


瞬間、私はその言葉の意味を解してしまった。







「……こんの、万年発情男!!!!!!!」





「いってぇ、なんで殴る」

「こっちが必死に痛みに耐えてるときに…!」

「いやいやわざとじゃないから! 自然現象だから!」

「ほざいてろ! いいから足首離してよっ」

「嫌だね。こんな気分にさせたお前が悪い」

「それは濡れ衣も甚だしい!! 元はといえば蚊が悪い!!」

「むしろ蚊に感謝」

「異議あり! ってちょ、何すんのっ」

「何って……ねぇ」

「ねぇって何! ねぇって! あぁもう何なのこのお約束の展開! こんなオチいらなかったぁああ!!!!」












そして更けゆく夏の夕暮れなのでした。




(end)









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ごめんなさい(笑)


2011.08.30