きみの隣で目覚める
真夜中を少しすぎた頃、杖明かりをたよりに階段をおりていくと、談話室には小さな明かりの先客がいた。
「あれ、どうしたの」
ぼんやりと浮かぶ人影が、聞き覚えのある声で問う。
「わっ、びっくりした…」
夜中の談話室に誰かいたことにも驚いた。
しかしそれ以前に、私にとって彼は、こうして二人きりで鉢合わせることが心臓に優しい相手ではない。
「…や、あのちょっと眠れなくて歩こうかと思っただけで、そっちこそ、何してたの」
「うーん、なんかぼーっとしてた」
「…だいじょうぶ?」
私の問いに彼は軽く頷いて、ソファの端に座り直した。そして空いた隣を示して笑った。
「座りなよ。たまには夜更かしちゃおう」
窓からぼんやり滲む月明かりだけが部屋を照らしていた。
すぐそばにあるものすら見えない薄い暗闇の中で、隣り合った人の温もりだけが私の存在を証明してくれている気がした。
何を話すでもなく二人で闇を見つめて、このまま朝がこなければいいのにと思う。
「眠れそう?」
控えめに沈黙を破る静かな声がきいた。
「眠くなっても寝れないよ」
私の言葉に、彼は怪訝そうになんでと言った。私は、だって、と口ごもりながら何と言おうかしばらく迷った。
「…だって、こんな近くにいてくれるのに、もったいなくて寝れないよ」
彼は小さな声で笑った。
「そんなこと言われたらほんとに寝かせたくなくなっちゃうな」
困ったように言う彼の手が私の手に重なる。
「眠ってる間にいなくなったりとかしないから、おやすみ」
……そんなに甘やかさないでよ、と私は泣きそうになる。
こんな夜の暗闇に紛れて、うっかり好きと伝えたくなってしまう。
それでも、確実に迫るあたたかな眠りに飛び込んで私は、朝までこうしていたらみんなに冷やかされるだろうな、と頭の隅で思った。
きみの隣で目覚める