※『恋しく思ってしまう』の続き

「どうして男って生き物はどんなに年老いても子供なのかしらねぇ」
「珍しいな、お前がそんなこと言うなんて。何かあったのかい」
「ちょっと前までウチに五右ェ門がいたのよ。その時やってたビジネスの手伝いにと思って拾ったのが間違いだったわ」
「まぁまぁそう言ってやるなよ。あいつらにも色々あるんだ」
グラスの氷がカランと音を立てる。隣の不二子はちょっと怒りながらも同意してくれるだろうなと思っていたが……ところがどっこい、完全に呆れた表情ではないか。
そんなに嫌だったのか?
「あっれ不二子ちゃあん、今のは「そうよねぇ」って苦笑するところだぜ?」
「なによ、他人事だと思って楽しそうにしちゃって!四六時中ずーっと窓の外ばっかり見て溜め息つかれるこっちの身にもなりなさいよ!」
「そ、そりゃあ悪かった…お疲れさん」
「五右ェ門……!!あとでこの借りは絶ッ対倍返ししてもらうんだから……!!」
「はははー……」
哀れ五右ェ門、ご愁傷様。
これじゃあせっかくの仲直り記念バカンスもおちおち楽しんでられねェ雰囲気だぜ?
「そういやあ不二子、お前その後2人がどうなったのか聞いたか?」
「なあんにも。帰ったら置き手紙1つ置いていなくなってたもの。以来連絡取ってないし」
「そうか……」
「そういうルパンは聞いたの?」
「まぁな。……ちょーっと焚き付けてやったら面白いぐれェに事が運んじまったよ」
あの時の五右ェ門の驚いた声は今でも忘れられねェ。これだから五右ェ門ちゃんをからかうのは止められねェんだよなぁ……あんまやりすぎっと名前に怒られちまうんだけんども。
「また五右ェ門のことからかったのね?いい加減にしないと名前に嫌われるわよ」
「そうなったら不二子が助けてくれるんだろ?」
「さぁ、どうかしら?」
「冷てェなー不二子ちゃんてばー……」
「……で、聞いたからには聞かせてくれるんでしょう?」
「ん?」
「2人のその後」

□■□■□

五右ェ門の元から出ていって、海外に滞在中だった次元のアパートに転がり込んで1週間弱。
朝から大雨が降り続いていたある夜に、彼はあたしを迎えに来た。涙とも雨の雫とも取れる水滴で頬を濡らしながら。驚くあたしが何か言うより早く、思い切り頭を下げた彼の口からは一言「すまなかった」という謝罪の言葉が。
嬉しかった。雨でずぶ濡れになるのも構わずにあたしの元へ来てくれたことが。あたしにもまだチャンスはあるんだって、彼自身が教えに来てくれた気がしたから。
そして今、夕焼けのハイウェイをバイクで駆けるあたしの後ろにはあの後からちょっと風邪気味らしい愛しい彼が乗っている。
「ハックション!」
「ねぇ、日本に帰ろうか」
「な、何を言うのだ…!!」
「それはこっちのセリフ!五右ェ門が風邪気味なのに1人バカンスなんて楽しんでられないよ」
「だが……っ」
「……分かった、こうしよう。あたしは日本でバカンスして、五右ェ門は風邪を治す。これでどう?」
「名前が良いのならば……」
「よし、決まりね。どこにしようかな……」
「名前……すまぬ」
「いいって。楽しいんだから」
サイドミラーに向かってウィンクすれば、五右ェ門は少し笑ってあたしの腰に腕を回してきた。
どんな心境の変化というか熱が脳に回ったのだろうか、普段の五右ェ門なら間違ってもこんなことはしてこない。
「ちょ、五右ェ門……!?」
「拙者も……お主といる時が何より楽しい」

カーテンコールはなしよ

Thanks:サーカスと愛人 Sky:P
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