この世界には嘘のような真実と同じくらい真実のような嘘が溢れている。
私は昔から「素直な子」と言われて育ってきた。だけどある日それは良い意味にも悪い意味にも聞こえると気付いた。
悪い意味で「素直」な私の一面をこれでもかと弄ぶのはこの世界に1人しかいない。新宿の情報屋?いや彼は新宿の悪魔の間違いだ。
何を言いたいのかというと、私は素直な性格なので騙されやすいということだ。
「本当、君ってばチョロいよねぇ。こーんなメール送ればすぐ血相変えて飛んでくるんだからさあ」
そう言って歪んだ笑顔を浮かべる折原さんの手の中の携帯には、数十分前私に送られてきたメールと同じ文面が表示されている。
いつもの嫌がらせのように絵文字を無意味に並べに並べまくった文面ではなく、「助けてくれ」とだけ書かれた文面。
何があったのかと心配するのも彼の元に駆けつけるのも当然だと思ったのに……そうだ、私は忘れていたのだ。彼が人を貶めることを宿命に生まれてきたような人間だということを。彼に騙される度に思っていては意味がない。
「──折原さんは子供です」
「へぇ?」
赤い瞳が続きを促している。
相変わらず嫌な瞳だと思いながら私は続ける。
「昔話であったでしょう。「狼が来た」って嘘をつき続ける子供の話。その子供ですよ」
「じゃあ俺は本当に狼が来た時に誰にも助けられずに死ぬって訳だ」
「そうですよ。本当にピンチになっても助けませんからね。あなたをピンチにしたのが平和島さんなら尚更です」
「そうだよねえ。だって君はシズちゃんに好意を抱いてるもんね、俺を見捨てて当然だ……あぁ、なんて可哀想な俺!」
折原さんは大げさな泣き真似をしたと思った次の瞬間、やっぱりあの歪んだ笑みを浮かべていた。
「だけど俺はこうも思うわけだ。もしそうなったら、君はシズちゃんより俺を選ぶって」
「ずいぶん自信がおありですね。その根拠は?」
「ここに君がいることが根拠だよ。簡単なことさ。
本当にどうでもいい奴なら普通よっぽどのお人好しでない限りそいつが死のうがなんだろうがどうでもいいって放っとくだろう?君はただ騙されやす……おっと失礼、素直なだけでよっぽどのお人好しではない。
それに俺が君を騙したのはこれが初めてじゃないしね。総合すれば君の中で俺は少なからず「死のうがなんだろうがどうでもいい奴」ではないってこと。
まあ別に君に助けてもらおうなんて思ってないから安心してね。だけど君ってホント騙されやすいからさぁ……」

「俺以外に騙されるなよ」

「君を騙していいのは俺だけだよ」なんて、さすがのジャイアンも裸足で逃げ出すジャニズムだ。

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企画『a word』様へ提出。
素敵な企画をありがとうございました!

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